Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ18)

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298.暴君では。ページ18

あまりにも手をパタパタしてるもんだから、何か可愛いんですけど...とか思いながら私はまたソファに腰掛けた。

「そーゆー話じゃ無いって！」
「え...でも、もう秘書はさせられないって...」
「智くんの秘書ね？」

私が首を傾げると、櫻井さんはアハッと笑う。

「会社の大事なトップデザイナーをフッたから、はいクビー！とかどんな暴君社長だよ」
「......」
「これまでも辞めた子は別に俺が辞めさせたんじゃなくて、本人達が気まずくなって辞めちゃったんだし」

あぁ、智さんに恋してフラれて辞めちゃった秘書の方々か。

「だから、このまんまではAは何も落ち度無いのに責任感じて辞めんじゃねぇの？って話になったの。智くんと」
「...そんなお話を...」
「だから、辞めるって言われる前に異動させてあげようって事にしたの」
「異動...ですか？」

クビじゃないんだ...とホっとしたと同時に、本当に有難くてまた思わず頭を下げてしまう。

「で、異動先なんだけど」
「はい」
「ここ、ね」
「...ここ？」
「社長室」
「......えぇっ！？」

私はきっととんでも無い顔をしてるんだろうけど、櫻井さんは爽やかに笑ってる。

「いや、俺ずっと秘書つけてなかったんだけどさ。最近、ちょっと無理が出て来て」
「...はい」
「さっきみたいに、手が足りないって事もしょっちゅうでさぁ」
「...そうなんですか」

そうなの、と彼が頷いた。

「スケジュール管理も自分でやってたんだけど、こないだダブルブッキングしちゃったんだよ」
「えぇっ！？」
「焦るよな！？」
「焦りますよ！大丈夫だったんですか？」
「そん時は不幸中の幸いで、一方のクライアントが打ち合わせキャンセルして来たから助かったんだけど、そんなの稀だからね。運が良かっただけで」

想像しただけで、肝が冷える。
打ち合わせを一日間違えてたあの日を思い出して、冷や汗。

「Aを注意したクセに何してんのって感じだよな」

櫻井さんも同じことを思い出したみたい。

「だから、さすがに秘書必要だな...って考えてた所で」
「......」
「一日限定じゃなくて、正式に『社長秘書』やってくんないかな」
「...私が、ですか...？」
「ちゃんとAの仕事っぷりは、見てたからね」

安心とか、戸惑いとか、何か色んな感情が溢れて来るけどとりあえず落ち着く為に大きく深呼吸をしたら、櫻井さんに笑われた。

「...あ...でも、智さんの秘書は...？」

思い出したのは、彼の柔らかい笑顔。