Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ12)

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292.CODEPENDENCE。ページ12

「俺と付き合った頃ね、あの人の旦那さんすっごい忙しかったの」
「.....」
「新婚さんだったのに全然夫婦で過ごす時間が無いなんて、先生...あ、旦那さんね、よくボヤいてた。俺に。まだバレてなかったからさ」

アハ、って渇いた笑い声。

「だから...もしかすると、伊織さんはあの時も誰かに構って欲しかっただけかもしんない」
「雅紀くん...」
「相手は、別に俺じゃなくても良かったのかもなー...って今になって、思う」
「.....」
「俺だけが盛り上がっちゃって、暴走したのかもね」

雅紀くんの小さな溜息が、浴室に響いた。
悲しく、ポツンと。

何だか、胸がギュッとなって肩に巻き付いてる雅紀くんの腕に触れる。

「...私が言うのはおかしいのかもしれないんだけど...」
「ん？」
「伊織さん、その時はちゃんと雅紀くんを好きだったと思うよ...誰でも良いとかじゃなくて」
「...Aちゃん？」
「女が全てを捨てても良いなんて覚悟が出来るのは、相手を心底好きになった時だけだと思う」

雅紀くんの過去全てを、悲しい物にして欲しくなかった。

家庭を投げ出して他の男と逃げるだなんてアソビでは出来ないコト。
そこには嘘なんて、きっと無かったはずだから。

その時の二人は、真っ直ぐ恋愛してたはずだから。

「フフッ、何でAちゃんがあの人を庇ってんの？」
「...え？」
「優しいね」
「...優しくないよ。別に庇ってる訳じゃないし」
「もしかして、俺の為？」

ンフフ、って雅紀くんが頬を私の頬にくっつける。

「もう私、雅紀くんの為でしか何も出来ないのかもね」

私も笑う。

「これって、共依存ってやつかな？」

そのまんまの体勢で聴く、彼の甘い声。

「...私もちょっとそれ、思ってた」
「怖い？」
「フフッ、どうだろ」
「俺、Aちゃん以外がどうなろうがどーだって良いって、本気で思ってんだよ？」

耳元で囁くように、雅紀くんが話す。

「Aちゃんを守る為なら、どんどん他人を傷付けるかもしんない」

耳朶を甘噛みされて、背中に電気が走ったようだった。
またゾクリとして、それを誤魔化すように

「私も雅紀くんを守る為なら何だってやってやる！って気持ちだけどね！」

両手で拳を作って、シャドーボクシングみたいにシュッシュッと突き出したら、雅紀くんが大笑いした。

「ホント、優しいね」
「優しくないってば」
「そんな優しいAちゃんだから、ちゃんと伝えとかなきゃね」

何の事か分からず、返事も出来ない。