Clear‐Crane‐Crime 5th【ars M.A】 (ページ19)

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159.ワタシを許して。ページ19

「だからAちゃんは」

重なり合ってた先生の指が、私の指を一本づつ絡め取って行く。

「俺を許して」

懺悔してるようにも聴こえる声と言葉に、もう何も言えない。

「俺もまた、恋して良いんだって...思わせて」

絡んだ先生の指が、ギュウっと私の手を握る。

「Aちゃんを好きになってしまった俺を、許して」

静かな部屋に、先生の声だけが落ちた。

「もう、誰も好きになれないって思ってたのに。...あのヒトを忘れられる訳が無いって...思ってたのにね」
「......」
「あぁ運命なんだって思った。大袈裟じゃなくて」

握られて無い方の手が、また私の髪を撫でる。

「Aちゃんは、俺の初恋の人だから」

先生が何を言ってるのか分からなくて、私はきっと瞬きも忘れてる。

「Aちゃん、中学生位になっても親父のトコに来てたでしょ？」
「...うん...」
「俺、何度も見掛けてたんだよ？Aちゃんはあんまり覚えてなかったみたいだけど」

クスっと笑って、先生は懐かしそうな表情で私を見た。

「可愛い子だなって...喋ってみたいなって思ってたけど、ほら俺、勉強しなきゃダメだったし見てるだけしか出来なかった」
「......」
「だからね。大人になったAちゃんがうちに来た時、話してる内に絶対にあの子だ！って本当はすっげぇ興奮してた」
「...うそ...」
「ホントだよ？まぁAちゃんは俺の事ほとんど覚えてないし、親父が初恋だなんて言われちゃったけどね」

ブニって、ほっぺたを指でつつかれる。

「ごめんなさい...」
「待って待って！その『ごめん』は何に対して！？」
「あ...あんまり昔の先生を覚えてなかったのと...それと、お父様が初恋の人でごめんなさい...」
「あー、それなら良かった。告白断られたのかと思って焦った！」
「...告白...」

先生のさっきの言葉達を思い出して、急に涙が溢れた。

零れた涙に自分でビックリしてると、すぐに先生が拭ってくれた。

「フフッ、泣いてる」
「......」
「さっきも泣いてたね」
「......」
「どうして？」

先生は意地悪だ。

「...さっきは、最後なのが寂しくて...」
「俺も寂しかった。じゃあ、この涙は？」

本当に意地悪だ。

「...嬉しくて...」
「どうして？」
「...わかんない...」

意地悪だ。

「じれったい」
「......先生...」
「男の前でそんな顔しちゃダメだってば...」

壊れ物を触るように首を撫でられて

この人になら壊されて良いって、本気で思った。