Clear‐Crane‐Crime 5th【ars M.A】 (ページ18)

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158.アナタを許すから。ページ18

アイスコーヒーが入った二つのグラスを手にした先生が、私の隣に座る。

「ミルクとガムシロ、一個づつで平気？」
「はい」

先生はブラックのままコーヒーを飲んでる。

一緒にコーヒーを飲んでるだけなのに、二人っきりなのはさっきまでと同じなのに。
ドキドキし過ぎて、手が震えてる。

先生が、グラスをローテーブルに置いた。

「俺、プー太郎だった時期があったって言った事無かったっけ？」
「あ...はい」
「まぁ仕事辞めた原因はニノから聞いたと思うんだけど。無職で何もしてなかった俺に、ニノも潤くんも厳しくってさ」

先生がちょっと笑う。

「俺が逃げてからミヤビナイトは潤くんがDJやってたんだけどね？俺見付かってから結構すぐ、一ヶ月も無い位かなぁ...ホントすぐにDJやらされたの」
「そうなんですか？」
「うん、もうフライヤーも刷ったから出来ないとか無しね！って。『マサキナイト』って打っちゃってるからって。マサキナイトって何！？って思うよね」

何だか、その優しい強引さが潤さんらしいかもしれない。

「で、ニノは自分のお客さんの歯医者さんに勝手に話通しちゃってね。お手伝い程度だけど、その先生の医院で働く事になって。結局ここを開業するまでお世話になってた」
「フフッ、凄い」
「ホント、マジで何なの！？って思ったよ。傷心旅行でもしようかと思ってたのに勝手すぎない？って。でも...結局アイツらに助けられたよね」

何か悔しいけど！って先生が笑う。

「ねぇ先生...」

私も、グラスをテーブルに置く。

「...もう、忘れる事は出来ましたか...？」

主語の無い私の言葉に、笑ってた横顔は静かにその口を一文字にした。

「俺はね...人を好きになるのは、もう怖いと思ってた」

自分の胸が、キシ...っと音を立てたのが分かった。

「それにあんな事をした俺が新しい恋をするなんて、誰が許してくれる？って思ったし」
「......」
「だけど本当は、誰かに許して欲しかった」

私はもう恋をしてはいけない。
そんなの、誰も許してくれないんだから。

「...私も...」

...ずっとそう、思ってた。

「じゃあさ...」

先生の体が少し近付く。

「俺がAちゃんを」

私の手に、大きな手が重なる。

「許すから」

息が出来ない。

「だからまた、Aちゃんは恋をしてよ」

先生の丸い目が、半月型になる。

「そしてできれば、その恋の相手は俺にして欲しい」

掠れた声に、心の奥の方がギュっと縮んだ。