Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ34)

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139.立ち止まる。ページ34

翌日、智さんは打ち合わせの為にちゃんとまたスーツを着て来てくれた。

今日はインナーがストライプのシャツになってる。

「ホントにすみませんでした」
「いつまで謝ってんのぉ」

ストームカンパニーまでの道、昨日の失敗を改めて謝罪しながら歩くと

智さんは「箪笥の肥やしになってるスーツの出番が増えて良かったよ」なんて笑ってくれた。

櫻井さんの言ってた通り、仕事になると智さんはぽやぽやしてる所か頼りになり過ぎるくらいで

私は隣に座って、時々資料を手渡す程度。

話し方こそいつものゆるっとした口調だけどその内容は整然としていて、無駄が無い。
無駄が無いのに、雑談を上手く取り入れるから彼の話に俄然興味が湧く。

なのに会社を出ると、もう眠たそうに目をトローンとさせて「脳みそフル稼働で充電切れちゃう...」ってボソボソ。

このギャップに、きっとこれまでの秘書さん達はコロリとやられたに違いない。

「智さん」
「んー？」
「あなたは罪な人ですね」
「おれ？何かした？」

んー、んー、って考えてる。

「あ！あれだ！こないだ駐輪禁止の場所にチャリ停めちゃって撤去されたんだよぉ！」
「あらあら」
「それが罪？」
「大切な愛車、取り戻しましたか？」
「うん。罰金払った」
「じゃあその罪はもう償ってますね」

打ち合わせの緊張から開放されて、軽く話して笑う。

そんな事してたからか、心が油断した。

考えないようにしてた先生のコトを、ふと思い出してしまって

頭がズキンと痛んだ。

昨日はほとんど眠れなかったから、きっとこの頭痛は寝不足のせい。

無意識にピタリと立ち止まってしまっていた私に気付いた智さんが

同じように私の隣でピタッと立ち止まってる。

「あ...ごめんなさい、ボーッとしてて...」
「ううん。歩きたくなるまで待つよ」
「フフッ、歩きたくない訳じゃ無いですよ？」
「ふふっ。そっか」

緩く微笑んで、智さんが歩き出す。
私も、また脚を前に出す。

「好きな人の事でも考えてた？」

智さんの言葉に、また足が止まってしまって

同じようにまた私と一緒に立ち止まった智さんが「正直者だねぇ」って可笑しそうにクスクスしてる。

「...ごめんなさい、仕事中なのに...」
「今は仕事中じゃなくて移動中だよ」
「.....」
「まぁおれは仕事中でも仕事関係無いコト、考えてるけどねぇ」

ポケットからキャラメルを出した智さんが1つを私にくれて、もう1つを自分の口に放り込んだ。