Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ23)

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128.制する。ページ23

ロビーの端っこに二人で黙って立っていると

「あ、大野さん！お待たせしました」

向こうから、スラっとした男性がやって来た。

「東山さん、御無沙汰してます」

頭を下げた智さんの後ろで、私も頭を下げる。

「あの、本日の打ち合わせなんですが...」
「あぁそれなんですけど、予定の変更をお願いしてたはずなんですが...伝わってませんでしたか？」
「え？変更、ですか？」
「水曜から木曜にして貰うように連絡したはずなんですけど」
「木曜...」

大野さんが、振り返って私を見た。

変更...という言葉を聞いて、血の気が引いて行く。

前に帰りのエレベーターで一緒になった櫻井さんから「変更があったから確認するように」と、言われた...。
その時に「明日確認しておこう」と思ったのに、その後相葉先生の所に行って浮かれた私はスッカリ確認を忘れてしまっていた。
しかも、私は確認する事だけじゃ無くて「変更があった」と言われた事すら今の今まで忘れてたんだ。

それを一気に思い出して、ハッ...と息を飲んだ瞬間に智さんはパっと東山さんの方に向き直り

謝罪しようと前に出ようとした私の事を、こっちを見ずに手だけで制した。

「申し訳ありません」

智さんが、腰を折って深く頭を下げる。
慌てて、私も頭を下げた。

「ぼくの確認不足です。失礼致しました」
「あー！大野さん、顔を上げて下さい！あ、貴女も顔を上げて」

東山さんが智さんと私と肩をポンポンと叩く。

「予定変更はこちらの勝手な都合でしたし、最終確認をしなかったうちにも非はあります」

そして、東山さんも頭を下げた。
また二人して頭を下げて、また東山さんに「顔上げて下さい！」って言われる繰り返し。

「大丈夫ですよ」

アハって笑った東山さんが「すっぽかされた訳じゃ無いですし」と、大野さんに言った後

「心配しないで下さい」と、私にも声を掛けてくれた。

「すみませんでした。早く東山さんとお仕事したいって気持ちが先走っちゃったみたいです」

大野さんが、ふんわりと笑うと

「アハハ！嬉しい事を仰って下さる」

東山さんも、キラリと笑った。

「本日はぼくのミスにお時間を割いて下さって、ありがとうございました」
「いえいえ。また明日、打ち合わせ楽しみにしております」
「ぼくも楽しみにしてます」

失礼します、とお互い頭を下げロビーで別れ

ビルから出て歩いてると智さんは、空を見ながらウーンと両手を挙げて伸びをした。