Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ22)

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127.アポイントメント。ページ22

電車の中で智さんは、座席で腰を捻るようにして窓の外を流れる景色を眺めてた。

「智さんって外見るの、お好きですね」
「うん、好き」

頷いて、ふふっと笑う。
つられて、私もフフって笑う。

笑う智さんの頬の中には、キャラメルが転がってるはず。
さっき、口の中に放り込んでたから。
そして、彼のポケットにはまだ何個かキャラメルが入ってるんだろう。
だって既に、二個目だから。

クライアントの会社がある駅に着き、二人でその道を歩く。
場所は頭の中に入ってるから、「会社、どこだー？」って言ってた智さんよりほんの少しだけ前を歩くようにした。

「着きましたよ」

約束の10分前。

あまり早くても失礼になるから...と、この時間に到着するように逆算してたけど正直無事に着けてホっとした。
初めての場所だし、ちゃんと辿り着けるのか少しだけヒヤヒヤしてたから。
クライアントのストームカンパニーが自社ビルだったお陰で、分かりやすくて助かった。

綺麗なロビーに入ると、智さんはロビーの内装が気になるのかキョロキョロしてる。
口開いてますよって注意したいけど、とりあえずお仕事しなきゃ。

私は、これまた綺麗なお姉さんが座ってる受付に進んだ。

「おはようございます」
「おはようございます。SAKURA-fieldの大野です。飲食事業部の東山さんとの打ち合わせで参りました」
「SAKURA-field様ですね」

お姉さんが手元のパソコンを操作してる。
きっと、その中に来客予定や一日の予定なんかが全部入ってるんだろう。

「...あの、すみませんが...」
「はい」
「アポイントメントは本日でしょうか」
「...え？」
「SAKURA-field様との打ち合わせは、本日の予定に無いのですが...」

嫌な寒気が背中からスゥ...っと広がって身体全体が冷える。

受付のお姉さんも、パソコンを操作しながら首を傾げ眉を顰めてる。

「どしたの？」
「あ...智さん、あの...」

近付いてきた智さんが、不思議そうに私を見た。

「東山に確認致しますので、少々お待ち頂けますか？」

お姉さんが内線を掛けるのを、何とも言えない緊張感の中見守る。

「Aちゃん？何があった？」
「...今日の打ち合わせが予定に無いらしいんです」
「え？」

智さんの表情が変わった。

「お待たせいたしました。東山がすぐに参りますので、そちらにお掛けになってお待ちください」

お姉さんにソファに座るよう促されたけど

私も智さんも、座る事は無かった。