Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ11)

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116.反則技。ページ11

「こーゆーのは、楽しんだモン勝ちなんですからね？」

大声のまま、そう言った潤さんが、私の腕を離して歩き出す。

離された腕には、光るリストバンド。

私も、この光の波のひとつ。

それが、何だか嬉しくは感じなくて妙に悲しかった。

もう1度、先生を見てから私もカウンターへと歩く。

「お水ですよね、ちょっと待って下さい」

潤さんが増田くんの立つカウンターの中へ入った。
増田くんは、膨大な量のグラスを洗うのに忙しそう。

「お待たせしました」
「ありがとうございます、すいません」

潤さんから受け取ったシンプルなグラスに入れられたお水を、一気に飲み干す。
喉を冷たい水が流れて行くのが、心地いい。

グラスを置くと、氷がカランと音を立てた。

「ごちそうさまです」
「いいえ、他に飲みたい物があったら言ってくださいね」
「はい」

仕事の顔に戻った潤さんにペコッと頭を下げた私は、トイレに寄ってからベースに戻る事にした。

男の子みたいに思いっきり顔が洗えたら良いのに...と、洗面所の大きな鏡を眺めながら思う。
メイクが恨めしい...けど、落とす訳にはいかない。

どうも頭がスッキリしない。

胸も、ずっとドキドキしていてやっぱり落ち着かない。

それが酔ってるからなのか、何なのかも分からなくて大きくため息を吐き出した。

トイレから出ると、さっきまで鳴っていた爆音の音楽では無くて

普段のMIYABIで流れてる音量のBGMに変わってる。

先生の出番、終わっちゃったのかな...

「.....あ」

もう少しDJしてるの見たかったな...と残念に思ってると、カウンターにその人は居た。

さっきまで耳に当ててたヘッドホンは、また首に掛けられて

汗で濡れた前髪を左手で上げて、オデコ全開にした先生が

スツールに座って、煙草を吸ってる。

目が合うと、咥えてた煙草を口から離しホワっと紫煙を吐き出して

「Aちゃん！」

笑ってくれる。

「あ...お疲れ様でした...マサキ、さん」

まだ言い慣れなくて、変な所に間をあけてしまった。
そんな私を見て、カウンターの中の潤さんがアハッ！って笑ってる。

「ベースには...戻らないんですか？」
「ちょっと疲れたからひと休み中」

先生が咥え煙草で、自分の横のスツールを引いた。

「お隣、どーぞ」
「えっ？」
「だってベースに戻ったら、Aちゃん独り占めできないでしょ？」

煙たそうに眉を顰めながらそんな事を言うなんて

.....反則技過ぎる。