8-11.成り行き ページ11
「よう、A! 自主練か?」
噂をすれば何とやら。
部活後、河川敷で練習をしていると、堤防から声をかけられた。見上げると、買い物袋を下げた円堂監督がこちらに降りて来る。その表情を伺ったが、この前のような考え込んでいる様子は見受けられない。
私は走り回って乱れた呼吸を整えて、監督に向き直った。
「はい! 監督は……」
「俺は奥さんのおつかい」
そう言って、監督は買い物袋に目をやった。半透明のビニール袋の中には、みりんが一本だけ入っている。
それよりも、私は監督の放った「奥さん」という言葉に気を取られていた。
「か、監督って、結婚してらっしゃるんですか……?」
「言ってなかったか?」
頷くと、監督は「普段は指輪外してるしなあ」と呟いた。
監督の奥さんはどんな人だろう。考えてみるが、想像がつかなかった。
どこからか、くぐもった着信音が聞こえた。私の携帯はベンチのバッグの中なので、円堂監督の携帯だ。監督は「悪い」と一言断ってから電話に出た。
「もしもし。__ああ、今帰ってるとこ」
電話の相手は奥さんらしい。
「いま河川敷でAに会って__そう、前に話した__……え?」
ふと、円堂監督の表情が曇った。自分の名前が出たすぐあとのことだったので、つい身構えてしまう。
「ああ、うん……わかった」
そう言って監督は通話を切った。そして、何かを決心したような表情で口を開く。
「A、うちで晩飯食べていかないか?」
「えっ?」
「奥さんが、よかったらって」
うちで__というのは、もちろん円堂監督の家で、ということだろう。
では、先程監督が表情を曇らせたのはなぜだ。そして今はどこか吹っ切れた様子なのはなぜだ。あまり来てほしくないのだろうか。だったら、私に家に来るかどうか聞かなければいい話だ。
「……急にお邪魔したらご迷惑じゃないですか?」
迷った末にそう返すと、円堂監督は「そんなことはない!」と首を横に振った。
「お前が来てくれたら、奥さんもきっと喜ぶ。遅いし、帰りは車で送っていくよ」
その言葉が後押しとなって、私は円堂監督の家にお邪魔することになった。
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春間(プロフ) - 爈久さん» 初めまして。コメントありがとうございます! 嬉しいお言葉をありがとうございます。今後も楽しんでいただけるようがんばります! (2021年2月7日 18時) (レス) id: 71c8355ca9 (このIDを非表示/違反報告)
爈久 - はじめまして!初めてのコメント失礼します。1話1話の話の展開がオリジナルで書かれていらっしゃるので、大変読み応えがあり ホールケーキ1個分食べた満足感があります。笑 更新の通知を楽しみにしています。 (2021年2月7日 3時) (レス) id: 49ee71ecf2 (このIDを非表示/違反報告)
春間(プロフ) - こころさん» コメントありがとうございます。励みになります! (2021年1月25日 14時) (レス) id: 71c8355ca9 (このIDを非表示/違反報告)
こころ(プロフ) - 面白かったです 続き楽しみにしてます更新頑張ってください (2021年1月25日 1時) (レス) id: eb962bcdd2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:春間 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/april_hrm
作成日時:2020年11月1日 14時