桜前線 4【イナクロ】 (ページ34)

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167　例の話ページ34

「兄さんのこと、教えてくれませんか」
「お兄さんのこと？」
「はい。アルノ博士の説明の時、パラレルワールドのことを話していましたよね」

「本来、時の流れとは、本流の一本のみなのじゃ。じゃが今回のように歴史を変えることによって、時間の新たな流れ、パラレルワールドができるんじゃ。また時として、パラレルワールドは一つだけではなく、複数できる場合もある」
「剣城のお兄さんの時みたいな感じですね。でも、俺たちと一緒に戦った優一さんは元に戻った...」
「どういうことだ」
「詳しいことはいずれ話すよ」
あのことか。

「話せば長いんだけど＿」

記憶に基づき、事実をありのまま話した。剣城にとっては酷な事実かもしれない。でも、事情を知る私には話す義務があると思った。事故が起こらなかったパラレルワールドがあったこと、そのパラレルワールドで生きていた優一さんと協力してプロトコル・オメガと戦ったこと、世界線は収束し、その優一さんは消滅したこと。

「そんな。兄さんが、俺のために...」
「最後に兄弟でサッカーできたんだって。優一さんは幸せそうに消えていったよ」
「...」
「剣城は今まで通りサッカーをやっていればいいと思うよ。勿論サッカーをしないっていう選択肢もあると思う。優一さんは剣城の本当の幸せを願っているんじゃないかな」

剣城は木にもたれかかったまま、俯いていた。

「そうですか」

爽やかな風が吹いた。鉄塔の風は優しくて好きだ。心地がいい。

「剣城は＿、本当に愛されてるよ」
「！」
「良いお兄さんだね」

風に吹かれながら、剣城は切なそうに言った。

「はい。俺の自慢の兄です」

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