（21） ページ22
私は過去を思い出しながら、中学生の彼に持論を投げかけた。
「学校って社会の縮図だなって思う時があるの。幼い頃は、知らない30人くらいの人と一緒に教室という箱に押し込まれて、そこで協力してやり過ごしていくでしょ。社会に出てからは、協力する目的がお金を稼ぐことに変わるだけで、本質的なことはあまり変わらないのかなって」
「そうなのかもしれないね。でも、”やり過ごす”っていうのはちょっと違うと思うな」
「そう？」
「それって、みんなとできるだけ関わらないようにするってことだよね。それってもったいないんじゃないかな」
「ああ、たしかに…」
「僕だったら、たくさんの人と出会って、たくさん友達つくりたい！」
彼は続けて語った。太陽の橙色の髪に日差しが反射して、キラキラと輝いていた。そして、この病室には明るさと薄暗さが混在していた。それはまるで彼を表現しているようにも見えた。
「この前、イシドさ＿…ある人が言ってくれたんだ。今この瞬間を生きろって。僕はこうやって入院してるけど、だからこそ経験できることもある。学校に行かない分自由な時間が多くあるし、僕のような入院患者の気持ちを理解することもできるってね」
「そうなんだ。いい言葉だね」
その時、私は予感した。彼はサッカーと医療に関わる仕事を将来するのではないかと。彼の経験が役立つ時が来るかもしれない。そう思った。そして、私は雨宮太陽という一人の人間の姿を捉えようとした。本質的な彼の面を知りたかった。
雨宮太陽は、まだ”太陽”ではない。そして、円堂守とは違った”太陽”の性質である。円堂守は真っ直ぐで眩しい、太陽そのもの。雨宮太陽は太陽の下に出ることを憧れているという違いがあるように私は思う。
それから彼とはいろんなことを話した。全国大会にこれから出場すること、クラスに転校生が来たこと、木戸川清修のサッカー部員と遭遇したこと、これから移住することを私は話した。看護師の冬花から上手く逃げる方法を思いついたこと、母親がプロリーグのDVDを見せてくれたこと、隣の病室の子と仲良くなったこと、看護師に可愛がられていることを太陽は話した。
「今日はありがとう。久しぶりに話せて嬉しかった」
「こちらこそありがとう！また天馬とも会いたいな」
「うん。今度は連れてくるよ」
太陽は親指を立ててウィンクした。私も彼を真似て、病室を出た。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 143人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
充滞(プロフ) - 星猫さん» ありがとうございます！ (2021年9月7日 21時) (
レス) id: 48c4c5694c (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - こちらこそすみません。頑張って下さいね！応援しますね！ (2021年9月7日 21時) (レス) id: f84c743866 (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - 星猫さん» お誘いありがとうございます。今回は遠慮させて頂きます。ご期待に添えず申し訳ありません。 (2021年9月7日 20時) (レス) id: ff878d9789 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - 無理だったら、ごめんなさい。応援しますので頑張って下さいね！ (2021年9月7日 20時) (レス) id: f84c743866 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - 一緒に合作しませんか？ (2021年9月7日 20時) (レス) id: f84c743866 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：充滞 | 作成日時：2021年9月7日 19時
