通訳ヌナと…【Taehyung：2】

後悔 -Taehyung- ページ32

あの日。

手を払われた時、
怯えるようなヌナの目を見た時。

同じように払われ、
同じように怯えた目をしたヌナとのことを思い出した。

あれは付き合う前で、
僕がヌナに告白した時のこと。

ヌナがまだ男の人が苦手ってことを知らなくて、
その後聞いて…

その時思ったんだ。

すごく好きな人だから、
本当に大好きな人だから、
この人の嫌がること、怖いことは絶対しないって。

それから付き合うようになって、
日毎思った。

ヌナを大切にしようって。
ヌナがいなきゃダメだからってわけじゃなく、
本当に本当にヌナを愛してたから…

だから、
大切に、慈しむように、
本当に大切に、ヌナを愛そうって。

小さな手を握り、
指を絡めると同じように絡めてくれて。

目が合うと、
あの丸い目の形を変えながらニコッと笑ってくれて。

僕に心も身体も許してくれるようになり、
あの時は、それを奇跡のように思ったのに…

いつしかそれは当たり前になり、
いつしか僕は、様々な気持ちを忘れ、
ヌナを想う気持ちより、
自分の想いばかりを優先させ…


だからヌナに再度手を払われ、
怯えた目をされたあの時、
本当に取り返しのつかないことをしてしまった、
って…

その時に気づいた僕は、
本当にどうしようもない人間だ。


すごく大好きで、
すごく大切な人。

なのにその人を、
その人が一番嫌な方法で、
自分が絶対にしないと誓った行為で、
僕は傷つけてしまった。


もうやめよう…終わりにしよう…別れよう


そう言われた時、
もう…何も言葉が出てこなかった。

そう言わせたのも、
そう思わせたのも、
全部僕で、
そのきっかけも何もかも、
全て僕がしたことが原因だから。

もういまさら謝って済むことではないし、
嫌だと拒否したり、
引き止められる立場ではなくて、
キーンと耳鳴りがする中、
いまさらしても遅い後悔が襲い、
ただ頭の中は空っぽで、
何かを考えることさえできなくて。

そして、部屋を去って行ったヌナ。
バタンッとドアが閉まった瞬間、
世界が変わった。


僕はここを知っている。

前、いたことがあるから。

ここは音も明るさも匂いもなく、
誰もいない空虚な世界。

とても苦しい世界。

でも、
この世界から僕を救ってくれたのはヌナだった。

だけど…
そのヌナを失ったのなら、
誰が救ってくれるんだろうか。

ヌナ以外に、
ヌナのような人はいるんだろうか。


いない。
絶対いない。

なのに僕は、
自らその大切な手を離してしまった。

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