通訳ヌナと…【Taehyung：2】

強がり -Taehyung- ページ12

ヌナが持ってるリモコン。
手ごとそれを掴んで再生ボタンを押した。

動き出した画面。
始まった音楽。

人気のある女性グループで、ノリの良い曲。

この歌懐かしいな、って歌いながら、
サビの部分のダンスを真似し、
横にいるヌナを見たんだけど…

ふっ…と、
一瞬だけ笑顔を浮かべ、

「私、そろそろ行くね」

と言って、
デスクの上にリモコンを置き、
代わりに資料を持ったヌナ。

「リモコン置いとくからっ、」

「なんで？」

「えっ、」

「なんで？ずっと観てたじゃん」

さっきの笑い方が嫌だった。

あんな笑い方、
ヌナにされたことなかった。

笑いたくもないのに笑う、
ただその場に合わせるような、
そんな時に笑う、
愛想笑いみたいな笑い方。

それがすごく嫌で、
せっかく会えたのに、
せっかく一緒にいるのに、
せっかく一緒に観てたのに、
まるでそれが嫌かのように、
僕が来たからかのように、
いなくなろうとするヌナが嫌だった。

「まだ仕事が残ってるから」

「僕が来たから？」

「違うよ」

「嘘。だって僕がもしまだ廊下から見てたら、ヌナ、まだここで観てるでしょ？せめてこの歌が終わるまでは見るでしょ？」

「テヒョン、痛いっ」

掴んでるヌナの二の腕。
自然と力が入る。

こんなにも近くにいるのに、
こんなにも一緒にいるのに。

あの頃とは違い、
今はやっぱり…気持ちが離れてるような気がして。

「ヌナって…僕のこと好き？好きならそれって…どういう好き？」

「テヒョン？」

「最初の頃みたいに…僕のこと、ちゃんと男として見てくれてる？愛してくれてる？」

目を丸くして驚いてる顔。
さっきは可愛いと思った。

けど今は違う。

何を驚いてるの？
何に驚いてるの？

図星を言い当てられたから驚いてるの？

「テヒョン…違う、…あのね…私…」

怖かった。
すごく怖かった。

疑問形で聞いたのは僕なのに、
その答えを知るのがすごく怖かった。

見下ろすヌナ。
すぐそこにいて。

掴んだ二の腕。
離せる自信なんかないのに。

大好きな唇。
柔らかくて甘い唇。
そこから紡がれる言葉。

答えなんか、
絶対に、
どうしたって聞きたくはなくて。

怖かった。
けど、それを知られたくなかった。

平気なのはヌナだけで、
僕は平気じゃないんだと知られるのが嫌だった。

だから強がるしかなくて。

僕も平気なんだ、って。
僕もヌナと同じなんだ、って。

とにかく何も考えられず、
ただ強がりたくて。

そして僕は、
その方向を間違ってしまった。

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