通訳ヌナと…【Jungkook】

充電 -Jungkook- ページ44

あの時、何も考えず、
ただ身体が動き、
気づいたらAさんの右手を掴んでた。

掴んだ瞬間、
頭に浮かんだあの時のこと。

手を繋ぎ、
雨の中走ったあの時のこと。

けど、
温かくて柔らかい手にハッとし、
現実に戻ると慌てて手を離し、
言いたくて、言えなかった言葉…

「大学、合格本当におめでとうございます」

と、伝えた。

「ありがとう。ごめんね、すぐにグクくんにも話したかったんだけど…」

「ううん…今おめでとうって言えたので、僕は充分です」

「次はグクくんだね」

「はい、頑張ります」

「高校の入学式はいつ？」

「あ…」

Aさんに聞かれた高校のこと。
一年進学を遅らせたことを話すと、
最初はビックリしてたけど、

「じゃあ…とりあえず今日から一年間は、勉強のこと考えず、夢のこと、お仕事のことだけ考えて頑張れるんだね」

…と、言ってくれて。

たしかにそうだ。

勉強が嫌いなくせに、
なぜか高校進学を一年遅らせたことがひかかってたけど…

そうだよ。
遅らせただけで、
行かないと決めたわけじゃないし。

それにAさんの言う通り、
勉強も試験も休める一年。

何かしながら別のことをするのが
基本苦手な僕。

一年集中して仕事ができるのは、
よく考えてみたら
すごくいいことなんじゃないかって。


「あ、そうだ！もし一年勉強から離れてて来年高校に入学する時、英語や数学とか、グクくんが忘れてたら、私が教えてあげる！」

「数学もですか？」

「数学も得意なんだよ？私」

「勉強…なんでもできるんですね。僕は全部苦手ですけど」

「ならスパルタで、ぐぅちゃん！また同じ所間違えてる！って怒りながら教えるから」

「ぐぅちゃん？」

「ぐぅちゃん」

「何ですか？それ」

「新しい呼び方」

「そんな呼び方しないで下さいよ！」

「これは怒ってる時の呼び方だから。ぐぅちゃん！って」

「ちょっ…！Aさん！」

僕が一歩近づくと、
Aさんが逃げるように僕から離れて。

また近づくと、また逃げて。

追いかけっこしてるみたいな僕達。





充電。

10月末からだから、
約3ヶ月半。

空っぽになったものが、
一気に溢れんばかりに充電された。

身体のしんどさも、
気持ちのしんどさからくる不安やモヤモヤも。

Aさんのお陰で前向きになれ、
一気に吹き飛んだ。


カメラの液晶モニターに映るAさん。
もう会いたい。
けど、
ここに映るAさんは、
僕だけのもの。

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