通訳ヌナと… 【Yoongi】

後ろ姿 -You- ページ32

またあの時みたいに見つめる
ユンギさんの後ろ姿。

何度か後ろを振り返ってくれ、
またすぐ前を向いてしまうんだけど…

歩くたびに変わるトップスのシワや、
動く手足とか。

どこか一つだけを見続けることはできず、
目が忙しなく動き続ける。



イヤフォン…

時間があれば買いたいのだと、
マネージャーさんに話すことをすっかり忘れていて。

ダメ元で聞けば、
あっさりOKを出してくれて、
急いで買おうと走っていれば…

「A！」

と…声が聞こえて。

聞き覚えるある声。
振り返ると、やっぱりユンギさんで。

都合がいいのかなんなのか、
なぜかまた『ヌナ』の部分が聞こえなくて。

戸惑いながらも話は続き、
ユンギさんが自分のイヤフォンをくれると言って。

また新たな戸惑いが発生し、
さっきまでの名前に対する戸惑いを忘れてしまってた…けど…


「A」


今度はちゃんと、ハッキリとそう聞こえた。

しかも後ろからじゃなく、正面から。

目を見ながら、口の形までハッキリと見えて。


ただの名前なのに。

一言なのに。

恐ろしいほどの破壊力に、
思考も身体も一瞬で停止してしまって。

その状態でイヤフォンについて質問され、
カウントダウンまでされ、
焦って答えてしまい…


「行こう？」

…と。

ユンギさんがしていたマスクをずらしそう言って。

言い終わった口元の口角が上がってて、
また笑顔が見えたから…

「はい」

と、返事をした私の気持ちも一瞬で明るくなって。



前にも自分に言い聞かせたけど、
勘違いしちゃいけない。

イヤフォンをくれたのは今日のお礼で、
名前で呼ばれたのもスタッフだから。

ユンギさんの優しさ。
そして、前と比べて話す機会が増え、
仲良く…なんておこがましいけど、
前よりかはきっと気楽に話せるようになったから。

だから。
ただそれだけのこと。

わかってる。
勘違いなんてしてない。

ただ…

ただ勝手に…

勝手に気になって…


「ユンギさん」

小走りで近づいて、
ユンギさんの右肩を軽く指先で叩いた。

「イヤフォン…お言葉に甘えちゃって…でも、本当にありがとうございます」

ちゃんとお礼を言えてなかったから、
そう伝えれば、

「うん」

いつもの口調で。
それしか言ってくれなかったけど。

目が…

さっきマスクをずらして笑ってくれた時と、
同じ形だったから…




後ろ姿を見ながら思った。

勝手に…

思うだけなら…いい…よね？

アイスラテ -Yoongi-→←イヤフォン -Yoongi-

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す