JIYONG -2-

電話 -Jiyong- ページ9

どれくらいこうしてるだろ。

スマホを握りしめて画面をタップし、
電源を消したり、溜め息をついたり、
また画面をタップしたり。

今日、聞いた話。
Aは今、シンガポールにいるということ。
他のグループのダンサーとしてペンミに参加し、
トラブルで来られなくなったモデルの代わりに、
MVに出ることになったこと。

そのMVを今日、撮影したということ。

撮影…
もう、終わったかな？
まだかな？

どんなMVなのかわからない。
俺の時みたいに昼間に撮影するのかもしれないし、
夜に撮影するのかもしれないし。

どれだけ撮影するのかもわからない。
数時間で終わるのか、数日かかるのか。

今、みんなで食事してるのかもしれないし、
もう疲れて寝てるのかもしれない。

シンガポールとの時差はマイナス1時間。

どうしようか…



この前クラブで会った女。

自然とお互い連絡しなくなって、
関係は自然消滅のようになくなって、
今の今まで思い出すこともほとんどなかったし、
後悔なんて一度もないし、
連絡を待つことも、しようと思うこともなかった。

あの女に限らず、いつも大抵そうなのに。

しかも、なんであの時、俺…
彼女…なんて、口にしたんだろ。

見栄を張ったわけでも、強がりでもない。
口実に使ったわけでもない。

抜け出さないか？と聞かれて、
一瞬、本当に一瞬だけ気持ちが揺れた。

そういうコト、久しぶりだし。

けど…

彼女いるの？と聞かれ、
その瞬間…Aの顔が頭に浮かんだ。

彼女じゃないのに。

彼女じゃないけど。

Aの顔が浮かんで、
とてもじゃないけど、そういうコトをする気になれなかった。


不思議だけど。


そして、今日たまたま耳に入った話。

仕事中に聞いたけど、その瞬間からウズウズし出し、心ここにない状態になった。

どこにAがいようとも、
今の世の中どこからでも連絡はできる。

連絡がなかった理由にはならないけど、
正直、もうそんなのはどうでもよくなってきた。

変な意地も、プライドも、
もう、どうでもよくなってきた。

でも今、家に帰り、1人になり、
スマホを握りしめると…

あんなに簡単にしていた電話が、
怖くてできなくなっていた。


ふと。
思いついて。

YouTubeを検索し、自分のMVを見た。

頭の中ではなく、久しぶりに見たAの姿。

1分程見たところで停止して、
電話をかけた。

見ると、声が聞きたくなる。

やっぱり。

どうしてもAにはそばにいて欲しい。

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