JIYONG -2-

裏表 -Jiyong- ページ25

「あー、ムカつく！」

車に乗るとそう吐き出し、
何度も溜め息を吐き、自分のおでこを拳で小突いたり、髪を手でかき乱してみたりした。


何？急に？
俺に対して？誰に対して？


マネージャーが聞いてくるけど無視をした。

誰に対して？

自分にだよ。
自分自身に対してムカついてんの。


さっきの何？
子供か？
幼稚すぎる。
ってか…バカすぎて情けない。

突然、目の前に現れたA。

瞬間で思ったのは、
あー、俺の知ってる、いつものAだ…って。

大きめのTシャツにスキニーパンツ。
スニーカー。
キャップの下はノーメイク。

ダンス練習なのかな？って思った。

やっぱり、こっちのAが好きだな…とも思った。
身体の中の何かが、柔らかく解れていきそうになった。

けど、先を歩くマネージャーに対し、笑顔で挨拶をした瞬間、MVが頭の中で再生され始めた。

裏のA。

俺が知っている表のA。

『お疲れ様です』
って笑顔でいつものように頭を下げながら、
その裏にはあのAがいるんだろ？

あんなこと、してるんだろ？


俺、病気かな？
MVと現実がごちゃごちゃになっている。
なってるけど、区別なんかつけれない。


やっぱり嫌だ。


そう思い、挨拶するAを見、
思いっきり目を逸らした。


だけど、目を逸らし、一歩前に進んだ瞬間、
胸の痛みが激しくなった。

黒い車の窓に映るAの後ろ姿。

その場に立ち止まったまま。


何してんだよ！

けど、後ろを振り向くことは出来なかった。

車に乗り込み、ドアを閉め、
やっとAがいた場所を見れたけど、
もうそこにはAはいなかった。








MVは1回しか見てない。
けど、脳内再生は何度したかわからない。

そして今、目の前の画面で踊るA。
カムバックした音楽番組。
MVはあんなんだったから、実際はどんなダンスなのか気になって。

けど、あのMVの歌はダンサーなしで、メンバーのみがスタンドマイクで歌うスタイルだった。

もう一つのタイトル曲の方に、後半になってCRAZYが出て来て、まあ…普通に踊る感じだった。

画面の中で笑顔で踊るA。

今、目の前にいるAも、
あのMVのAも、
資料にあれこれ書き込むAも、
ナミソム島のAも、
家でのAも。

全員…全部、裏とか表じゃなく、
ただ1人のAなんだよな。


やっと頭と心が冷静になってきつつある。
やっと。

遅すぎだろ。

ってか…
何で、あんなにAに対してイラついてたんだろう。

孤独 -Jiyong-→←MV -Jiyong-

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す