JIYONG -2-

風邪 -Jiyong- ページ50

俺を抱きしめてくれる細い腕。
温かな体温。
大好きな匂い。

顔を覗き込めば、
そこにいたのはA。

驚きすぎて、声さえ出ない俺。

優しく微笑んで、また抱きしめてくれた。

身体の力が抜けて、
まるでAの中に溶けてしまいそうな気分。

それだけなのに、
泣きそうになる俺。

いいのか…な？
躊躇しながらも動かした手。

勇気を出して、Aの背中に手を回し、
抱きしめた瞬間。

パンッとAの身体が弾けるように消え、
一瞬にして辺りが真っ暗になった。
右を見ても、左を見ても真っ暗。
誰もいない。
声も聞こえない。
それに寒い。

寒くて、暗くて、孤独で、不安で。

A！
A！

と、我を忘れたように名前を叫ぶ。

道があるのか、穴があるのか、
それさえもわからないけど、
それでも名前を呼びながらAを探す。


そしてパッと明かりが見えたと思ったら…

目の前には見慣れた天井。
さっきのように辺りを見回すと自分の部屋。

「夢か…」

なんていう夢なんだ…
ってか、当たり前。
現実であるはずがない。

あれ？

目を擦ろうとした瞬間、
汗がびっしょりの自分に気づいた。

驚いて身体を起こそうとすると、
今度は身体が痛いことに気づいた。

「え…」

と、出た自分の声。
次はその変な声と喉の痛みに驚いた。


当たり前だよ。
何やってんだよ…

暖房もつけてない部屋。
ベッドの上に寝転んで、
布団もかけずに寝れば…
そりゃあ風邪も引くって。

重だるい身体を起こし、シャワーを浴びて、
迎えに来た車に乗り込んだ。

仕事はある。
変わらない生活。

マネージャーは俺の体調に気づき心配してくれたけど、本当に心配して欲しい人はもうにいない。

車の窓に顔をくっつければ、
その冷たさが心地良い。

目を開け、外を見て気づいたこと。

「今日って…24日だっけ？」

「そうですよ。って…その声…本当に大丈夫ですか？」

そして思い出したこと。
24日、Aはテヒョンって男と何か約束があること。

今、道を歩く恋人同士のように、
Aもそうやって歩くんだろうか…

俺の知らない男と。


そんなことを考えながら着いた会社。

今日はいないんだよな。
だって約束があるんだし…


もう何もかも、全てその事しか考えられなくて。

Aのいない場所。
そこに1人いる俺。

楽しんでいるであろうAと、
1人で仕事をする俺。

体調も悪く、集中もできなく、
案の定、忙しくなる年末に向け、
今日は家に帰らされることになった。

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