陸拾 知らない ページ13
人影は何故か入り口で足を止めた。まさか、攘夷浪士ではないかと剣を握った……その瞬間。
パッと街灯は灯り、夜闇を照らす。
驚いた。人影は予想していたものとはまるで違ったから。人影はにこっと笑って携帯を取り出した。
「山野、俺はただパトロールしてただけでィ。警察がパトロールなんざ至極当然だろィ?」
「………あ、しもしもー?副長、沖田隊長が……
………………なーんて、フェイクなんですけどね!あ、でも今ここをポチれば……嫌ですよね?」
真選組新人隊士、一番隊所属の山野八十也。つまりは俺の下僕………間違えた、部下。
可愛いらしい面立ちをしたこいつはかなりの腹黒だ。
「……今日なら会えたのになぁ、あいつ」
「何でィいきなり」
「…こっちの話です。で隊長、好きな人とかはいないんですか?彼女さんとか」
「俺のこと好きな女ならいっぱいいまさァ」
「……自意識過剰…じゃなくてモテモテですね。
じゃあ、この世で一番嫌いなもの…は何ですか?」
隣に座る僕ではなく真っ正面をじっと見つめながら、さらに少し間を置いてから話し出した。
「……嫌いなんてそんな生半可なもんじゃねェ。憎い。それはきっと、奴が死ぬか俺が死ぬかまで絶対に揺らがねェだろうな」
殺意に満ちた、そんな表情。
懐かしいや昔と全然変わらない。
異常なまでに真っ直ぐで、芯の強い男。
するといきなり立ち上がり、にっと笑った。
「やっぱりな。
……剣を構えろ山野。焦るな、お前には第二世沖田副長が付いてんだ。無敵でィ」
嫌いなんだ。僕には手に入らないものを持っているこいつが。ずっと、ずっと。
____お前らでそれで密偵のつもり……?
____うん!僕らみってーだもん。
____いいから早く憑依して、一鳴きして。
死神族の者は意思疎通という力を持っていて、口と口だけではなく、心と心で会話出来る。
もしかしたら死神族チートじゃね?とか思う人がいるかもしれないけど、デメリットも勿論あるんだよ。
「ニャー!!!」
「ワンッ!ワンッ!」
「………猫と犬ですね。隊長はどっち派ですか?」
「俺は従順な子犬でィ」
おかしいなと言わんばかりに頭をかく沖田総悟。
そう。まず第一のデメリットはこいつら。
通称ちび密偵。これでどうにか成り立っているのだからすごいと思う。
だが、こいつらも死神。本気を出すと変わる…はず。
本当のデメリット。
それは最狂にして最悪なものなのかもしれない。
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作者名:千の歌を歌う人 | 作成日時:2019年9月8日 1時