伍捌 月狼 ページ11
真夜中。草木さえ眠る時間。
自室のクローゼットを開き、何年か振りに目にした黒いローブを身に纏う。そして動物の骸骨を顔につけた。それは、使い魔である動物のもの。
私は狼。他には鹿だったり、馬だったりする。
「今宵、月前のこの地。契約の通り私に力を」
____久しぶり……
____生きてたのか。
____じゃなかったら月も生きてないよ?
使い魔と契約主は目を合わせることで会話できる。テレパシーみたいなもの。
廊下に出ると驚いた顔をした人達とすれ違う。
そりゃそうだろう。日と月の対の名を持つ伝説の使い魔。その片方が月だから。
私は暗い廊下の先にある一際大きな扉をノックした。
「Aです。言われた通り月も一緒です」
「さぁどうぞ」
言わずと知れた死神族のお偉い。
浮かべた笑みは乾ききっていて、不快にすら感じる。
「……早速なんだけど。良かったわね、あなたの罰を取り消して下さるそうよ」
「…え………」
「そのままじゃあなたの精神が崩壊するだけですもの。仕事に支障を来す可能性もあるから」
その先も何か話していたがよく覚えていない。
頭が真っ白になって、早く部屋に戻りたくて。
ベッドの上で膝を抱え込んで顔を伏せて、泣いた。
子供みたいに、みっともなく。
月はずっと隣にいてくれた。私がきっと寝込むまでずっと。ごめんね、ありがとう月。
____俺は……Aの味方だよ。俺が使えてるのは死神じゃないあんたなんだから。
次の日。私は船を降りていた。
今日は公園のベンチに一人腰を掛けた。来るはずもないその人を何時間も、何時間も待ち続けた。
分かってた、来ないなんて。それにあの人は。
私を覚えていない。
その事実だけが私の胸に刺さり、心に隙間を作ってしまうようで。
溢れた涙を拭い、また船へと戻った。
いつからこんなに泣き虫になってしまったんだろう。
「…え、何でこんな所にいるの…神威」
「うーん。密偵……かな?」
「かな?じゃない!!早くこのローブ羽織って!バレたら処刑されちゃう!」
「ひどいなぁ、会いに来てあげたんじゃないか。唯一の友達としてさ」
当たり前かのように私のベッドに座って、満面の笑みでそう答えられた。
彼とは友達というか……狩られるか、刈るか…そんな関係だった。でも、少し。ほんの少し安心した気がするのはきっと気のせい。
46人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:千の歌を歌う人 | 作成日時:2019年9月8日 1時