. 燈火 2 (ページ17)

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hk side

「危険な状態です、帝王切開に切り替えます」

〜〜〜

家に帰ると、若かりし俺と薮が淡々と台詞を述べている
今でも鮮明に思い出すあの超満員の会場

すごく綺麗で、すごく怖かったな…と

でもずっと昔から隣に居たはずの当の彼はこの部屋にいない

いや…彼は、床に倒れ、お腹に手を当て苦しんでいた

「……薮！！！」

〜〜〜

先生からは、最悪の話をされた

お別れなんてこちらから願い下げだ

「頑張れ薮…」

自分でも驚くほど冷静だった
帝王切開になると言われたはずだが、焦りもしなかった

このままこの世を去るやつだなんて思えなかったから

俺も少し前と比べて、少しは大人になったのだと
初めての手術のときは、本当にお別れが怖かったな…なんて思い出すくらい余裕があった

手術にはそう時間はかからなかった

でも、それと同時に手術室が妙に慌ただしくなったのがわかって
我が子が、薮が、どういう状況に陥っているのかは瞬時に把握できた

「ぁっ、あの、…！」

「すみませんもう少々お待ちください」

焦った様子で手術室を出る先生に問い掛けるも、当然ながら答えは帰ってこなかった

俺は、手術室の前のベンチでただただふたりの無事を祈るしかなかった

暫くすると、慌ただしかったのが静かになった

吉か、凶か…

「ひかるくん、少しいいですか？」

いつも俺の大きな不安を、「大丈夫大丈夫」と微笑みながら取り除いてくれた先生

その顔はいつもの優しい先生ではなくて、どこか緊迫したような感じで、重苦しい空気が漂っていた

「お子さん、帝王切開で産まれました

2900gちょうどの女の子です
薮くんのほうは、安静にしていて、このまま目を覚ませば問題はないと思います

娘さんの方ですが…息を吹き返しはしましたが、後遺症が残る可能性はあります
それでも最善は尽くします

お子さん触れる事はできませんが、見に行かれますか？」

「いえ、薮と一緒に見たいので」

「分かりました、また病室で薮さん眠られてるので

…ひかるくん、目の下にくまが出来ているのでちゃんと眠ってくださいね？」

俺の事まで心配してくれる先生に感謝をひとつ
そのまま彼の待つ病室へ戻った

麻酔が効いているだけのはずなのにすやすやと気持ちよさそうに眠る姿に安心した
お腹を擦ると当然、お腹の膨らみは感じられなくて…

「よかった…」

不安の払拭と同時に、俺は眠ってしまっていたようだった