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周りを警戒するミスタを他所にAさんに近付く。
描きかけの大きな絵は無惨に切り裂かれ床に散らばっていた。
アダムとイブの楽園だ。
二人は引き離されていた。
「Aさん起きろ、頼む...」
肩を掴み揺するも瞼はピクリとも動かない。
出会った頃は胸元までだったストレートな黒髪は今や腰近くまで伸びていた。
次第に視界の隅が黒ずんでくる。
微かにぼやけ出し手足の先が冷水に浸したように冷え出した。
彼女の手を握り額に当てる。
「ごめん、Aさん、ごめん...許してくれ...っ」
握り返すことすらしない。
スタンド攻撃を受けた彼女は目を覚まさない。
僕がもっとしっかりしていたら。
いや違う出会わなければよかった。
吹っ切れていさえすれば。
心に想いを溜め込み続けたせいで僕は永遠とあの夏に囚われている。
僕が想いを伝えていれば良かったのか?
いや捨て去ればよかったのだ。
「好きなんだ、君が」
目を開けない君に今伝えるのは卑怯か?
僕は臆病者なんだ。
あの休日の関係が何より愛おしかった。
君の不用心さに理不尽に嫉妬した。
焼け焦げる心を君にぶつけた。
今更だろう、笑ってくれよ。
「...こいつは画家か」
「あのホテルに絵が飾られていた。
...その時に知り合いだと言ってしまったんだ」
「察しが良すぎるだろあの女。
何かあの女がやったっつー証拠があればいいんだけどよお...
何かねぇか?」
「何か...」
目の前の黄金の箱に目を奪われた。
手に取り観察をしてみる。
何の変哲もないただの箱...。
だが見覚えがない。
いや、一年ぶりの部屋だ。知らないものが増えているのは何ら不思議じゃあない。
けど今部屋の中、これ以外なにも変わっていない。
強いて言うなら壁に貼られている宗教絵画のコピーが増えた事くらいか。
棚に並べられた色とりどりの瓶を観察する。
これが岩絵の具ってやつか。
...日本語で書かれている。
流石に読めないな。
他には、と筆や割れた皿も調べる。
特に変わったものは無い。
やはり怪しいのはあの黄金の箱のみだ。
第一彼女はアトリエに不必要なものは置かない。
あの箱はなんだ?何の意味がある?
「...開けるぞ」
「気ぃつけろよ」
カチリと鍵を開け、そしてそっと蓋を持ち上げた。
中身は空だった。
「本当に他には無いんだな」
「嗚呼」
考察しろ。
脳を使え。全てを疑え。
あの女に問い詰めるだけの証拠と根拠を見つけ出せ。
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鈴鶴@メガネ=本体(プロフ) - さくらんぼ&チェリーさん» そんなッ!あなたがッ!!大好きですッ!!!(告白)ありがとうございます!めちゃくちゃ嬉しいです! (2019年8月25日 16時) (レス) id: 022f546ed4 (このIDを非表示/違反報告)
さくらんぼ&チェリー - もう!本当に!!どうしてこんなに素敵なお話が書けるんですか!?好きです!(テンション) (2019年8月25日 9時) (レス) id: ced51d468f (このIDを非表示/違反報告)
鈴鶴@メガネ=本体(プロフ) - さくらんぼさん» 読んでいただきありがとうございます!是非ごゆっくりしていってください! (2019年8月22日 20時) (レス) id: 022f546ed4 (このIDを非表示/違反報告)
鈴鶴@メガネ=本体(プロフ) - 暇を持て余した夢女さん» とっても素敵な表現ありがとうございます...!こちらこそ幸せです!また機会がございましたらその時はよろしくお願いします! (2019年8月22日 20時) (レス) id: 022f546ed4 (このIDを非表示/違反報告)
さくらんぼ - 次から次へと呼んでしまいます。気づいたら1時間ぐらい経ってました。 (2019年8月22日 15時) (レス) id: 5e7806b95a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鈴鶴@メガネ=本体 | 作成日時:2019年8月4日 19時