彼女の正体が何であれ【鬼滅の刃】【遊郭編】

調子が狂う ページ5

【蕨姫Side】



アタシは蕨姫。ここ、京極屋の花魁だ。


でも、ただの花魁じゃない。


「堕姫」という名を持つ、上弦の陸。


アタシは美人で若い女が大好き。だから、生まれた場所でもある遊郭で、遊女として過ごしている。


遊郭は、そこそこの見た目をした女がたくさんいる。そして、遊女がいなくなっても足抜けしたとしか思われず、私の正体もばれる危険性がない


つまり、遊郭は絶好の隠れ家なのだ。








そんな遊郭の中にも変わり者はいる。


例えば「A」。


Aはアタシと同じ京極屋で働いている、下っ端の遊女だ。


禿の頃は、アタシの担当をしていた鈍臭いガキなのだが、なぜか心から嫌いになることができない。


一体どうして？


私はそいつのせいで、いつも頭を悩ませられている。


あのガキは、鈍臭いしのろまだし、遊女として人気になるのには相当な努力がいるほどだ。


アタシのような花魁とは、天と地ほどの差がある。


だが、Aは他の者のように私に怯えていない。寧ろ楽しそうに笑っているのだ。





さっきも、突然『花魁は、切り替えがしっかりしてるだけですもんね！』などと言い出し、口を抑えていた。


恐らくお座敷での態度とそれ以外での態度が違いすぎることについてだろう。


そのことについては私も自覚がある。だけど当たった相手に申し訳ないとも思わない。


でも「猫かぶり」ではなく「切り替えがしっかりしている」という言い方をしてくれたことで、妙に心が暖かくなってしまった。


しかも、さらに泣き虫で鈍臭いAの同期に『蕨姫は優しい』とまで主張する始末。


(全く・・・調子が狂うじゃない)


のほほんとした顔の裏に、何か恐ろしいものでも隠し持っているのだろうか？


小さくため息を吐いてから、アタシは部屋に戻った。

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