短編集【実ｼ兄者】 (ページ3)

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「君の名前なんて言うの？」

え？とでも言いたげな顔。
いつまでもおばけくんと言うわけにもいかないし、彼とは実質同棲してるわけだ。物は言いようである。

彼が喋らない理由はわからないどころか名前も知らないし、死因…は不謹慎だけど知らないし……。何も知らない男と同棲してるだなんて親にも言えない。不甲斐ない娘で申し訳ない。

少し考えた様子を見せてから、ちょいちょいと手招きをする。取って食われたらどうしよう。不甲斐ない娘で申し訳ない。あめーん。

その予想は的中したのだろうか、おばけくんは私が近づきパーソナルスペースに侵入したことを確認すると口を大きく開けた。死を覚悟する瞬間って案外恐怖で動けないのだなと改めて思った。

しかし残念ところがどっこい、おばけくんは口の中を見せていただけであった。
ウツボの求愛行動に口を開けるとかなんとか…が咄嗟に連想されたがそれはどうでもいい。彼の歯は所謂ギザ歯と言われるもので、まさしくウツボのようだった。

ウツボの話をしている場合ではない。彼が見せたいのは歯ではない。
一目見てこれが死因か、と分かった。あまりにも一瞬で理解しちゃったので歯に意識が向いたのだろうか。だからウツボの話はどうでもいい。

「君これ自分で噛み切ったの？」
「！！」

こくこくと首が取れる勢いで頷くおばけくん。彼の舌は噛み切られていた。
舌を噛み切って自害？いつの時代ですか。特徴的な歯も相まってすごくとてもすごくグロテスク……再生能力もなく死んだ直後の姿なだけあり断面はちゃんと肉だった。生々しい。

つまり舌がないから話せないわけである！絶望的。なわけない。残念ながら私は天才なので五十音順に一文字ずつ言っていけばそのうち当たるのだ。じゅげむでもない限りは。

そうこうしてわかったおばけくんもといゾムくん。彼がどんな理由で自害を選んだかはちょっと怖くて聞けなかったけれど、そのうち聞ければいい。未来の私に勇気があればだがな。ガハ。

【かけなかった小ネタ】
ﾇﾝ百年前の軍パロzmさんです。
事故物件じゃないじゃん！と言いたげな顔ですね！
実際この家で亡くなった方は普通に成仏しているのでzmさんはずっとこの地にﾇﾝ百年前のいるだけの人です。
軍が壊滅！オワタ！となり自害を選んだzmさんってだけなのであまり深くはないです。