52.誰かじゃなく、アイツ - N - ページ6
帰宅して家の中が真っ暗だと
少し残念な気持ちになる自分がいる
別に明るくたって
最愛の人が待っている訳でもないのに
アイツと一緒に住み始めてから俺はオカシイ
最初は"誰か"と一緒に過ごす事で穴の開いた心が少しずつ埋められていった
だからアイツには感謝してる
その気持ちも旅行の時に伝えられたし、
もうそれで済んだ話だと思っていたけど……
最近は、"アイツ"と過ごす事に意味を持ち始めている気がする
だから今も……
「あー…嫌な予感」
ポケットの中で鳴るメールの通知に、俺は顔を歪ませてしまうんだ
【これから帰ります。
ご飯まだなら冷蔵庫にうどんあるよ】
まるで今俺が腹を空かせて帰宅した事を知ってるかのようなタイミング
冷蔵庫にうどんねぇ……あぁ、あったあった
味噌煮込みうどん
「病人かっての」
もっと早く連絡くれてたら外で食ってくんのに
あーーーーまぁいいや
とりあえず返信………………
「あっ」
…………。
『もしもし…？カズくん…？』
なんでこのタイミングで掛けてくんだよもう…
通話ボタン押しちゃったじゃん
「ハルか？どうしたの」
『急にごめんね、今…いい？』
「……少しだけなら」
あんまり良くないけど
腹減ってるし
「何か用？」
煙草片手にベランダへ出ると冷たい風が頬を掠めた
この気温はハルと初めて出会った時と似ている
出来れば早くこの電話を切りたいものだ
『カズくんの声が聴きたくなって…』
「んな事で掛けてくるんじゃないよ」
『だってっ……』
ライターの火が揺らめく向こうで、ハルの寂しそうな顔が浮かぶ
だけどそれを消し去るかの様に俺は煙草を火に近づけ、紫煙を一つ吐いた
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作者名：ミト
| 作成日時：2019年11月23日 15時
