67.フルネーム - J - ページ21
「あの、カード使えますか？」
「大丈夫ですよ」
彼女からクレジットカードを受け取ってレジに通す。
決済が終わって出てきたレシートをバインダーに挟み、サインをお願いした。
「こちらにサインお願いします」
「はい」
長くしなやかな髪を耳に掛けて、ゆっくりと丁寧に名前を書いていく。
そして少しずつ彼女の名前が記されていくと同時に、俺の脳内にはある男の声が流れてきた。
＿＿"名前聞くのも忘れるくらい話に夢中になって…"
＿＿"一目惚れだったと思う…"
____"最後の最後に、名前聞いたのよ"
＿＿"フユツキハルカ……一発で覚えた"
「………フユツキハルカ」
「え？」
「…って、読むの？それ」
"冬月春華"という漢字の並びに、どうか違う読み方であってくれと願ったが。
「はい、そうですよ」
彼女は柔らかく微笑んだ。
その笑みに釣られて俺も軽く微笑み返したけど、頭の中は少しパニックだった。
だって、その名前はこの間カズが口にした名前と同じだからだ。
同姓同名？
いや、それにしてはあまり被らなさそうな名前だ。
もしもこの女性がカズの元カノだったら…？
そんな偶然…あり得るのか？
Aが知ったらどうなる？
アイツの性格なら……身を引くか？
いや待て。
二人の関係はもう完全に終わってるんだろ？
なら元カノでも何も問題はない。
「あの、私の名前…変ですか？」
「ん？あぁいいや！素敵な名前だなーと思って…」
まぁでも。Aはカズの元カノのフルネームは知らないだろうし、これからも今まで通り接客してれば安心…かな。
ただ、最近はカズも店に顔出すし、鉢合わせだけは気をつけたい。
二人の関係が完全に終わってるなんて、俺の願望に過ぎないからな。
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作者名：ミト
| 作成日時：2019年11月23日 15時
