33.ズルい瞳 ページ7
「何だったんだろ…あれ」
この唇に、まだキスの感覚が残っている。
なぜ大野さんは私に？
カズは渡さないとか言ってたけど、結局その真意も分からないままだ。
「A、ちょっといい？」
部屋の扉から顔を覗かせてきたカズ。
私の勘違いでなければこの人もまた、
私にキスをしようとした。
___"なら離せない"
___"冗談じゃないから"
………いや、あれは冗談だ。
私が破局からまだ立ち直っていないと思っての、あれだ。
ちゃんと伝えなきゃ。
私に好きな人が出来たこと。
あぁでも、それは告白になってしまう
せめて前の恋人を引きずってない事くらいは知ってもらわないと………
「A？おーい」
「あ、…ごめん」
カズはベッドに腰を掛けて、
私にひらひらと手を振っていた
そしてその手はそのまま私の手首を捕まえる。
「え…何？」
「お前さ、綺麗だよね、手」
「…そう？」
「うん。……よし、決めた」
突然人の部屋に来て、人の手握って、
今度は一体何をされるの？
最近心臓が持たないよ……
「A、モデルやらない？」
「モデル！？」
「そんなに驚かなくて大丈夫、ここだけのモデルだから」
私の手をゆらゆらと揺らすカズ。
手だけのモデルって事？
なんでまた急にそんな話が…
「ブレスレットの広告で使いたいのよ、この手」
「広告…」
「特設サイトにちょっと載るだけ。ね？お願い」
「う、、」
その上目遣い、ズルい
断ろうにも断れないじゃない
「じゃあ…こんな手で良ければどうぞ」
「本当！？ありがとう！また詳細決まり次第言うから。それじゃ……って、今何してたの？」
自分の用事が済んでやっと周りが見えたのか、カズは私の部屋を見渡した
全開のクローゼットに、テーブルやベッドに散らばった洋服たち…
この状態はあまり見られたくないものだった
「あー…えっと、明日何着ていこうかなって」
「どこ行くの？」
「水族館。相葉さんと…」
「いつの間にデートするような仲になってんのよ」
「デートじゃないよ。遊ぶだけ」
「何ガキみたいな事言ってんのデートじゃん」
デート？と言っていいの？
だって相葉さんからは「遊ぼう」って誘われてるし…。ていうか何で怒られてるんだろう私…
「ま、お前が誰と何しようが知ったこっちゃないけどね」
「何その言い方、感じわ…」
「ただし」
「…？」
「この間みたいに終電逃すとかナシだからね」
本日二度目の上目遣いに、私はまんまと頷いた
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作者名：ミト
| 作成日時：2019年11月4日 11時
