短編まとめ【ナ】

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若尾くんと一緒にゲームセンターを回っていると、先ほどゲットした白猫とセットになっている黒猫のぬいぐるみが目にとまった。かわいい。欲に負けてじっと台を見つめてしまう。
「それ、欲しいの？」
「うん、欲しい……！やってもいい？」
「いいよ〜」
財布を取り出して、チャリンと音を立てながらお金を入れた。指先に緊張が走る。若尾くんが、じっとこちらを見ていた。クレーンがぬいぐるみを掴んだかと思ったのに、するりと下に落ちてしまう。
「あ〜、も〜……！」
「惜しかったね」
「もっかい！もっかいやる！」
慣れた手つきでお金を連続して入れる。横から見て景品を確実に狙える位置を確認して、アームを下ろす。それでもやっぱりぬいぐるみはアームからずり落ちてゲットできない。
「う〜……」
900円くらい使ったタイミングで、両替をしようか迷っていると、若尾くんがお金を入れてクレーンゲームをし始めた。ぎゅ、と黒猫がアームに掴まれて、穴に落ちる。あっけない。
「とれた！ほら、Aさん、あげる」
若尾くんは私に向けてぬいぐるみを差し出した。
「えっ！？わ、若尾くんのお金だし、貰えないよ」
「これ、確率機でしょ。俺がとれたのたまたまだし」
渡されたぬいぐるみを受け取る。可愛い。ぎゅっ、と大事に抱きしめた。
「ありがとう……！」
嬉しくてにこにことしてしまう。若尾くんの顔を見ると、照れたような顔をしていて、それにもまた笑ってしまった。なんだか可愛い。
「そんな顔すんだね、Aさん。あんま笑わないと思ってた」
「若尾くんも、そんなふうに照れるんだね」
「は、て、照れてねーし！お、俺もう帰る！」
「え、待って待って、ごめんね」
いつの間にか喧騒は聞こえづらくなっていた。若尾くんを追いかけるようにゲームセンターから出ると、駐輪場のあたりで止まられる。顔が彼の背中にぶつかりそうになった。
「Aさん、また一緒に遊ぼう、ゲーセンだけじゃなくて」
「え、あ、うん！」
私はあまり友達がいないため、こういうふうに誘われるのは滅多になく、嬉しくなった。若尾くんとまた遊べるんだ、と呑気に笑ってしまう。
「Aさんの新しい一面、これから、いろんなとこで見せてよ」
夕焼けの中、そう言った彼の顔が赤く見えたけれど、気のせいだろうか。

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