鶴は幸せを運ぶのか Ⅱ (ページ9)

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「でも…何でホテルなんだろうね。直接工場案内してもらった方が早いのに」
『さぁ？向こう側にも事情があるんでしょ。もしかしたら…工場の中、見られたくなかったりして』

あの後、ラーメンを食べ、腹ごなしにドライブをして。
一時五分前の現在、私達は河津製薬が指定したホテルにやってきていた。清潔なロビーのソファに腰掛け、やることも無く、真司と取り留めもない話をして時間を潰す。

「お待たせしました」
「『！』」

と、後ろから聞こえた声。

「河津製薬の弁護士をしている＿北岡です」

挨拶をしようと立ち上がれば、差し出された名刺。

書いてある名前は、"北岡秀一"

どこかで聞き覚えがある名前だ。確かめようと記憶を手繰りながら顔を上げれば、それ以上の衝撃に、考え事が吹っ飛んだ。

彼の姿は、名前以上に覚えがあった。
…そうだ、この前花鶏で。

「アッ！アンタこないだの！」

と、真司が弾かれたように立ち上がって、指さして言った。
指刺された側である彼…北岡サンも覚えていたらしく、目を見開いて言う。

「おぉ、これまた偶然だな。…それに、もしや貴方は、あの店の…」
『あぁ、そうですね。臨時ですが、花鶏で店員をしてました。なんだか真司がご迷惑をお掛けしたみたいで』

言えば、真司がアレは違う！と反論してきたが、私も北岡サンも無視。
彼は気にしないでください、と笑って、続ける。

「雰囲気が違うので一瞬分かりませんでしたよ。マァ、お掛けください」

北岡サンは、ローテーブルを挟んで向かいのソファに腰掛けた。

見覚えの方は解決した。
残るのは、聞き覚えの方。