約束の夜 ページ40
仕事帰りの、ある夜。
『兄さん？』
夜道にいきなり現れた兄さんは、なんだか寂しそうで、どこか孤独に見えた。
「…A。優衣の命が、危ない」
『＿＿え』
「助けるためには、お前の協力が必要だ。危険な目に会うかもしれない。…頼めるか」
『…も、ちろん、優衣の、ためなら。…でも、何を』
言えば、兄さんは嬉しそうに笑った。
兄さんが足を踏み出したので、同じように、私も歩み寄る。
「お前には、大切な役割を頼みたい」
『何？』
「終着点だ。モンスターやライダーの、還る場所」
『モンスター…？ライダー…？何、それ』
「優衣を助けるには、必要な存在だ。優衣を…守るには」
兄さんは辛そうに言う。なんのことか飲み込めないままだったけれど、兄さんが辛そうに何度も謝るから、私も何度も頷いた。
『分かったよ。よく、分からないけど。兄さんが言うってことは、本当に優衣を助けるためだろうから』
兄さんは優衣を愛してるもんね。そう言うと、兄さんはお前のことも同じだけ愛していると述べる。
その顔はやっぱり寂しそうだったけれど、優しいいつもの兄さんだった。
「お前は終着点だ。モンスターやライダーの還る場所だ」
『うん』
「終着点は力を蓄え、与えることができる」
『うん』
「それから…約束事が、一つ」
『…？なに、』
「終着点は、全てのライダーに平等でなくてはならない」
『……なんで？』
「じきに、分かる」
兄さんは覚えたか？と問い掛けて、それに肯定の意を示した私を抱き締めた。
幼い頃から変わらない、私たち兄妹の愛情表現。口数の少なかった私たちの、最小限且つ最大限の、愛の伝え方。
「全てが終わったら、また三人で暮らそう。今度こそ幸せに」
『…うん』
「A」
『…』
「元気でな」
『…兄さんも、ね』
終着点は平等。
初めて聞いた時は疑問に思ったが、今はわかる。
ライダーになる人間は皆願いを抱えていて、ソレを叶えられるのはたった一人。
終着点＿ライダーバトルの歯車である私は、誰かに肩入れしてはいけないのだろう。
全て終わったら、三人で暮らせると兄さんは言った。
全て終わるのはいつなのか。
全てが終わるには、一体どれだけの時間と……犠牲が、必要なのか。
時間にして半年。
あれからたった半年しか経っていないハズなのに、何年も何十年も、兄さんに会えていない気がする。
兄さんに会えない日々を繰り返している。
『＿＿兄さん』
大丈夫。
兄さんが、私に嘘をついたことなんて、ないんだから。
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2022年10月1日 14時
