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『あ、もし痛かったりしたら言ってね』
「うん…」
痛みを与えないように、赤く腫れた彼の腕に触れる。そのまま力を送り込むようにしてやれば、患部が淡く光りだした。
「す、げえ…」
力を送り込むというこの行為に、最初は苦戦したものだ。力んでも叫んでも上手くいくワケではないので、コツを掴むまで大変だった。
今は蓄積される力を血液のように考えて、形を感じるようにしている。身体中に血液と共に流れるソレを、手のひらに集めて放出するのだ。
真司が確かに表情を明るくして、治っているのだと実感してきたその時。
『ッ！』
突如。
言いようもない浮遊感が、私を襲った。
「A！」
「Aちゃん！」
「お姉ちゃん？！」
『…あ、れ…？』
反射で力を送るのを止めれば、直ぐに収まる浮遊感。しかし尾を引くように未だ頭に違和感は残っている。
今までは、こんなに早く異変が起こるなんて無かったのに。
「A、もう止めろ」
『…あー…うん、ごめん』
「別に謝れとは言ってない」
『いやぁ、まさかこんな早く来るとは…』
目頭を抑えて、数回瞬きをする。
しばらくすれば、立ちくらみのような不快感も収まってきた。
「お姉ちゃん、大丈夫…？」
『や、ホント、大丈夫』
「今日、元々具合悪い、とか？」
『いや、そういうことは特に…あ、』
「？何か心当たり？」
『関係あるか分かんないけど…今日、忙しくて夕飯抜いたんだよね』
「それだよ、お姉ちゃん…」
優衣は呆れたようにそう言って、何か作るよと二階へ向かった。うどんとラーメンの二択を聞かれたので、前者を選択する。
それから真司に目を向けて、治せなかったことを謝れば、彼は凄い勢いで首を振った。
「イヤイヤ、もう完璧治ったし！」
『嘘つけ』
「ホントだって！」
『正直に』
「…まだ、痛みはあるけど…やってもらう前とは比べ物にならないくらい楽になった」
『…そ、』
真司曰く、激しく動かし続けなければ問題ないくらいの痛み、だそう。
なら、リスクを負ってまで治さなくても大丈夫か。真司のことだし余計に動いて痛めないといいが…後で湿布でも貼っつけといてやろうかな。
真司が今度こそ蓮のカップを片付けるのを見ていれば、上から声が掛かった。
優衣の声だ。うどんができたらしい。
『…！鍋焼きうどん…』
「そう。良い？これで」
『勿論！最高だよ、優衣』
ありがとうと告げれば、気恥しそうに肩をすくめる優衣。
鍋焼きうどんはアツアツで、疲れた体が癒される感じがした。
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2022年10月1日 14時
