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あれから令子サンを送り、私は花鶏へやってきていた。令子サンにせっかく貰ったクッキーは、忘れないうちに渡してしまいたかったので。
『おじゃましま＿＿』
まだ営業中の花鶏の扉を、手馴れたように開けると。
「あ…お姉ちゃん、」
「…」
「…A、ちゃん」
出迎えたのは、なんともギスギスした空気。
テーブル席に座る蓮と、エプロンをつけた真司。二人はテーブルを挟んで睨み合い、優衣がそんなふたりを仲裁するように立っている。叔母サンはカウンターからそれを、我関せずで見守っていた。
何があったんだ、こりゃ。
「…フン、」
真司はわざとらしく鼻を鳴らしてから、不機嫌を隠すことなくキッチンへ歩いていった。
蓮はソレに反応も示さず、手元の新聞に目を通す。
マァ、一先ず。
『優衣、コレ、令子サンに貰って』
「わ、いいの？」
『うん。一人暮らしじゃ食べきれないし』
「ありがとう、」
言えば、優衣もキッチンの方へ戻っていく。ソレを見送ってから、蓮の隣に腰掛けた。
何の真似だと目で訴えてくるが無視をし、口を開く。
『何があったワケ？』
「……城戸の接客がなっていなくてな」
『接客？何、真司バイトでもすんの？』
「…聞いていないのか？アイツ、ココに住むらしいぞ」
『…は？』
蓮は本当に知らないのか、と呆れたように溜息を付いた。
彼曰く、叔母サン相手に会社に居候していることや追い出されそうなことを話したら、あれよあれよと花鶏に住むことになったのだそうだ。
引越し先というのは花鶏のことだったのか。マジかよふざけんな。
「お前のことだから、許可するかと思ったがな。仕事先同じなんだろう？」
『イヤ、確かに真司とは同僚だけどさ、』
別に真司を信用していないとかでは無い。可愛い、しかも年頃の妹が、男とひとつ屋根の下というのが問題なのだ。
一人暮らしさせるのも不安だったと言うのに、真司と言えど男と同居だなんて。
しかも、今は良くても、しばらくすれば叔母サンはまた海外に行くのだろう。そうすれば優衣と真司は二人暮らし。……
可愛い優衣が？男と？二人暮らし？
巫山戯んなよマジで。
ーガチャン！
なんて脳内で文句を並び立てていれば、陶器が割れる音が響いた。音の方へ振り向けば、真司と叔母サンが騒いでいる。
真司がカップを割ったらしい。
叔母サンは真司に、もしかして不器用？！なんて言っている。叔母サン、そんなことも確認せずに雇ったワケ…？
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2022年10月1日 14時
