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「どうしてこんな遅くにおひとりで？」
『仕事が長引いてしまって。いつもならバイクか車を使うんですが…』
「成程…。宜しければ、私が送っていきましょうか？」
『え？』
彼は至極当然のように言った。こんな夜遅くに、女性一人で夜道を歩かせるのは気が引ける、と。そしてその後勿論無理強いはしませんとも言ってくれた。
正直、さっき絡まれたせいで元々ギリギリだった電車の時間はより危うくなってしまったし、自分で選んでいる服装と言えど、こんなに長い間歩くことは無かったから足が痛い。願ってもない申し出である。
『……なら、お願いします。ご迷惑でなければ』
「真逆」
少し歩けば、須藤サンの車が見える。ドアは須藤サンが開けてくれて、手馴れたエスコートに舌を巻いた。
行先に自分の住所を伝え、須藤サンが車を走らせる。普通に上手い。
「そういえば…先程酔っ払い達に啖呵を切っていたのを見た時は驚きましたよ。もしかしたら助けは要らなかったかもしれませんね」
『え？…あぁ、見られてたんですね、お恥ずかしい。ついカッとなって』
「いえ、女性に好きな服装をさせる器もない男には、丁度良い薬だったと思いますよ」
車通りも少ない深夜では、家まで着くのにそう時間は掛からなかった。アパートの入口に横付けされた車から降りて、頭を下げる。
『今日はありがとうございました』
「こちらこそ、楽しかったです。次お会いした時には、食事でもどうです？」
『是非』
断る理由もなかったので、軽く頷いて、入口のドアへ向かう。彼は私がアパートの中に入るまで、車を発進させることは無かった。
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2022年9月24日 18時
