笑って、オンディーヌ (ページ44)

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なんてカッコつけたけど、それで強くなれるわけはない。
私に秘められた力なんてないし、追い詰められて強くなるとか、無理。

だから血反吐吐きながら盾になるだけ。市民と、倒れたヒーローの盾。

もう痛みの感覚とか無くて、目の前も霞んでる。腕に力も入らないのに殴るから、きっと深海王にダメージなんて入っていない。

でも、応援の声が聞こえるから。
ヒーローは逃げないから。

『っ、ああ！クソ！』

もう、感情はぐちゃぐちゃだ。
深海王への怒りとか、逃げた自分への怒りとか。でも怒りだけじゃなくて、生まれて初めての、死線というものへの、楽しさもある。

痛い、ありがとう、倒す、楽しい。

もうここに理屈なんてない。
少しでも、この戦いを長引かせなきゃ＿＿

「…終わりよ。」
『あえ…？』
「結構楽しめたわ。」

気づけば、手にあった鉄パイプは消えていた。手のひらからは血が吹き出ていて…いや、身体中から血が出ていて。もう立つのもやっとで、というより、意識を保っているのが不思議な程で。

スローモーションのように深海王の手が振り下ろされる。

うっわー…これ、死んだなぁ…。

その光景に体の力が抜けた。
体はそのまま地面に＿＿

「よくやった。ナイスファイト。」

眩しい程の白が、目の前にあった。

『…せんせ、』

安心しきった私の記憶は、そこから、無い。