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「Aちゃんッ！」
『…ッは、』
振り向けば、前方に見えたその姿。
勢いよくこちらに向かってくるソレは、状況を理解するより前に、私の体とぶつかった。そのまま背中に腕が回る感覚がして、抱き締められていることに気付く。
『…佐野、なんで、』
「Aちゃん…Aちゃん、俺…」
彼の足の力は次第に抜け、その体はズルズルと座り込む。引っ張られるように私も膝をつき、必死に名前を呼んでくる彼の体を抱き締めた。
無意識の内に、目の前の人間を宥めなければと思ったのだ。彼は何かに怯えているようで、その呼吸は殆ど過呼吸だったから。
「俺…東條に。いや、違う、浅倉が…」
『佐野、』
「ミラーワールドから出たくて…でも、無理で、」
彼の身体は冷えていて、濡れていた。散々雨に打たれたのだろう。つい先程雨は降り始めたのだから、きっと彼は、ライダーの姿のまま死んだのでは無い。
そして、彼が涙ながらに紡ぐ言葉。普通、ミラーワールドを行き来出来るのはライダーだけなのだ。生身の人間がミラーワールドに入るのはモンスターやライダーに引き摺り込まれた時だけで、通常、一度入れば出てくることは出来ない。そしてミラーワールドに居続ければ、いずれ消滅してしまう。
彼の状況と言葉から判断するに、ミラーワールド内で、彼の変身は解けてしまったのだろう。その原因は、東條か浅倉か…その両方か。
「Aちゃん、俺、出られなくて、」
『ッ、』
「鏡の中に見えるのに、帰れなくて…ずっと、」
震える彼の体から、その恐怖はありありと伝わってきた。
ミラーワールドから出られず、次第に自らの体が粒子となって消えていく。鏡の向こうに現実世界が見えるのに、どれだけ願っても帰ることが出来ない。
その時間がどれだけ苦痛で、怖かったか。
「…俺、」
自身の肩に埋まった彼の頭が持ち上がり、その表情を垣間見る。その目はどこか、遠くを見詰めているようだった。
「戦い続けなくちゃならないって。途中でライダーは辞められないんだって、言われて」
『…うん、』
「巫山戯んなって思ったけど、でも。…どうにもならないから」
『…』
「社長になって、いい暮らし出来て…Aちゃんとも、仲良くなれたかなって、思って」
脳内を、謝罪の言葉が埋め尽くす。
やっぱり彼は、ライダーになんてならなければ良かったのだ。兄が目を付けなければ、彼は真っ当な人生を送ることが出来た。
平和に、有り余る幸せを享受する。その資格を持った人間だったのに。
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りんごキャラメル@さくらぁ - 《追記》しかしそんな馬鹿なトコがかわいくて好きです。 (5月19日 22時) (
レス) id: 0caca33ed5 (このIDを非表示/違反報告)
りんごキャラメル@さくらぁ - 多数決のシーン、好きです…(笑) 後から浅倉さんがゆっくり手をあげるトコとか。夢主ちゃんもあげましたか…やっぱり、真司くんは馬鹿なんですよ(←酷) (5月19日 22時) (レス) id: 0caca33ed5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2023年5月16日 18時
