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「ッあ、」
『！』
腕の中の佐野の体が、粒子となって消えていく。
恐怖が蘇ったのか、彼は体を固くした。粒子となって消えるのを留めるためか、彼を恐怖から守るためか、私は咄嗟に腕に込める力を強める。
「Aちゃん」
『ッ、何、』
「好き」
彼は顔を上げ、私と目を合わせて言った。
『…佐野、』
「優しくしてくれてありがとう。自信持てって言ってくれてありがとう。俺の話、聞いてくれてありがとう」
並べられた感謝の対象は、取るに足らない簡単なことばかり。しかしソレを告げる彼の言葉は重く、本心であるというのが伝わってきた。
あんなに簡単なことでも、彼にとっての救いになり得ていたのだ。
そんなの、これからいくらでもしてやる。
いくらでも、してやるのに。
粒子となって空へ昇り、消えていく彼の体は、それが叶わないことを表していた。
「俺…幸せになりたかっただけなのに…」
最後に聞こえたその言葉。
『あ…、』
確かに腕の中にあった彼の体が、蜃気楼のように掻き消えて。意味を持たない声が口から漏れると同時に、黒だけの空間は消え去った。
鼓膜を揺らす、ザー…という、テレビの砂嵐を彷彿とさせる音。
それが雨の音なのか、自身の脳内で響く音なのか。混乱しきった現在の頭では、判別することは出来ない。
雨は一層強まって、私の体を濡らしている。
しかし私は地面…花鶏の玄関先に座り込みながら、動くことが出来なかった。動かなくてはと、脳が思考することすら出来なかったのだ。
顔を濡らしているのが雨粒なのか、涙なのか、そんな簡単な区別すらつかない。
「Aちゃん？」
ふと、背後から扉が開く音と、聞きなれた明るい声。
「Aちゃん…！アンタそんなとこで何して！」
『…あ、』
「早く中入りなさい！風邪ひくでしょ！？」
ぐんっ、と腕が引っ張られて、引き摺られるように花鶏へ戻る。
そのままタオルで頭を拭かれて、風呂場へと押し込まれて。纏まらない頭で服を脱いでいる最中、私は。
『…は、』
自らの顔を濡らすモノが、涙だと気付いたのだった。
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りんごキャラメル@さくらぁ - 《追記》しかしそんな馬鹿なトコがかわいくて好きです。 (5月19日 22時) (
レス) id: 0caca33ed5 (このIDを非表示/違反報告)
りんごキャラメル@さくらぁ - 多数決のシーン、好きです…(笑) 後から浅倉さんがゆっくり手をあげるトコとか。夢主ちゃんもあげましたか…やっぱり、真司くんは馬鹿なんですよ(←酷) (5月19日 22時) (レス) id: 0caca33ed5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2023年5月16日 18時
