鶴は幸せを運ぶのか Ⅹ (ページ49)

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『私が言えることじゃないけど…花鶏の手伝い、ありがとう』
「ううん、こちらこそ」
『叔母サン、東條が来てから機嫌が良いんだよ。これからもよろしく』
「ウン。じゃあ、また」

後片付けも終わり、スッカリ日も落ちた頃。
彼が花鶏を去っていくのを店先で見届けてから、私は踵を返して中に戻ろうとした。

「Aちゃんッ！」

しかし背後から聞こえたエンジンの音と、投げ掛けられた声に、私の足は止まることとなる。
振り返れば、ソコに居たのは真司だった。

『真司…随分遅かったね』
「ちょっと、モンスターに会って…ってそうじゃなくて！」
『エッうわ何』

よく分からないが、何やら真司は相当焦っているらしかった。
一大事だと言わんばかりに、私の肩は彼の両手によって掴まれる。バチと目を合わせて、真司は、危険に突っ込んだ子供を案じる父親みたいに話し続けた。

「Aちゃん、大丈夫ッ？」
『…え…嗚呼、あのライダーのこと？あの後は…特に襲ってきたりなんて無かったけど』
「そうだけどそうじゃなくて！」
『何』
「東條だよ！ソイツの正体、東條なんだ！」
『……は？』

あのライダー。ソイツ。
私達の間に絶望的な認識の差がない限り、ソレが示すのは、優衣を襲った黒いライダーのことだろう。

「アレはライダーじゃない。オルタナティブ…香川ってヤツが創ったんだって、」
『創った…兄さん以外の人間が？』
「間違いない。東條は優衣ちゃんを狙って…だから花鶏に潜り込んだんだ！」
『そ、んな…何のために、』
「ソレは…！」

どんどん語気が強まる真司。グルグル回る思考の隅で、こんなところで話していれば近所迷惑だと、控えめに警鐘が打ち鳴らされる。

「…優衣ちゃんが…」
『優衣が…？』
「優衣ちゃんが、死んだら。…ライダーバトルは終わるから」

一瞬、底の見えない暗闇に、突き落とされたような感覚。

『……は、』

一人を殺すことで大勢が助かるなら。
その一人が、大切な人間であったなら。

大勢を助けるべき。そうだとは、知っていても。

その選択が目の前に突き付けられた時、私は、いずれかを選ぶ勇気なんて持ち合わせていなかった。