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「何だよ、コレ、」
「結婚の御祝儀だ。話は聞いた、あそこまですれば結婚だろう」
困惑する北岡サンに蓮は笑顔でそう告げて、もう用はないとばかりに踵を返した。その横で真司は北岡サンに親指を立てて、蓮の後を追いかける。"頑張れ"とか"良かったな"とか、見当違いの意味が込められたサムズアップなのだろう。
「巫、山戯るな誰が！」
「マァ、式には呼ぶなよ。面倒だから」
蓮の笑顔は近年稀に見る爽やかなモノだった。北岡サンを困らせていると分かっているからだろう。自分の思った通りに人間が動いているからだろう。
性格が悪い。ハナから期待していたワケじゃないけれど、それにしたって性格が悪い。
蓮(と真司)は意気揚々と扉を潜り、北岡サン宅を後にした。
完全に私のことは忘れているようだが、人を困らせることで一番の笑顔を見せるヤツ(秋山蓮)と行動を共にするのも嫌なので別に構わないと思う。
「……Aちゃん、」
『あー…。私は北岡サンの結婚式、面倒だとは思わないですよ。全然…呼ばれたら行くんで…』
「フォローして欲しいのそこじゃないって…」
北岡サンは心身共に疲れているようで、視線が自身の足元から動かない。
何だかのうのうと帰る気にもならなくて、じっとその様を見つめていると、客人が帰ったと思ったのか、部屋の奥から由良サンの顔が覗いた。
「めぐみのヤツ…一体俺が何をしたって言うんだ…確かに俺は…彼女をクビにしたけどさぁ、」
「先生…！教えてください。めぐみさんはどんな人だったのか。何故先生はめぐみさんをクビにしたのか」
「何故クビにしたかって…？そそっかしかったんだよ、あの女」
『そそっかしい…？』
「嗚呼、どうしようもなくな」
落ち着きがない･不注意･軽はずみ･慌て者…"そそっかしい"と聞いて浮かぶ人物像はそんなものだ。
あまり深い知識は無いが、間違っても秘書という職業には向いていなさそうな特徴である。
しかし北岡サンの話を聞き、私は想像以上のめぐみサンのそそっかしさに目を見張ることとなった。
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2023年3月26日 15時
