狗巻先輩……弟居たんっすか？

漆 ページ11

「呀、早く」
「分かってるって」

早く一緒に行きたい棘は、後ろを着いてくる呀を振り返ってはニコニコしながら早く、と言ってくる

また、一緒に行きたいが外を見ていきたい呀は棘が振り返るたび、満面の笑みを浮かべて走って追いかける


呪言が効いていたら、こんな幸せな兄弟ではなかった

「呀、なんで兄貴って呼ぶんだ？」
「なんでって……なんでだろ……兄ちゃんの方がいい？」

棘の質問に、呀はヒョコヒョコ歩きながら答える

「どっちでも良いけど、やっぱり兄ちゃんとかの方が良いな」

「分かった、これからは兄ちゃんって呼んでみるよ」

2人は、楽しそうに寮棟に入った


「棘、呀。待ってたよ」

「五条先生」「たかな」

部屋に入ると、窓際に五条が立っていた

そして、棘に何かを放る

「呀、右手が使えないと不便でしょ。それ、手につけてご覧」

棘が呀に、受け取った手袋を見せる

「俺が触っても、崩れませんか？」

「さぁ？それは、やって見ないと分からないね」

呀は、恐る恐る棘から手袋を右手で受け取る





手袋に変化は無かった




「すごい……！」
「ほらほら、つけてご覧よ」

呀が、驚いていると五条が着けるように催促してくる

右手で何かを触れること自体、初めてに近い呀は、アワアワしながら着けた


首に巻いている、薄い水色のスカーフと同色の薄手の手袋


「似合ってる似合ってる！」

「しゃけ！」

良かったね！と、抱きついてくる棘を、苦笑いしながら、支える

その時、無意識に右手を使っていた

棘に触れた時に、気付き、ハッとする

けれど、棘には傷一つない

「兄ちゃん〜！」
「呀〜！」

呀は、嬉しさのあまり、ボロボロと泣きながら棘に抱きついた


初めて、両手で触れられた温かさは、これからの生涯の中忘れることは無い

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