きっと、ダメだった ページ10
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「違う！ここは何度も言ったでしょ！？」
「す、すみません･･･」
「謝るならちゃんと直してから言って！」
………あぁ、嫌だな。この空気。
本番が近いからか、周りがピリピリしている。
監督だって、思った通りの演技ではないのか口調も厳しくなっている。
「次、檜山」
『はい』
監督は私があの実力派俳優の娘だからって指導をしない。
そのせいで周りからは監督を金で釣ってるとかいう、根も葉もない噂が飛び交っているのだ。
私としてはたとえどんな人の娘だろうが指導はして欲しいし、監督の指導があってこそ完成する演劇だと思っているので、指導がないとどうやっていいかも分からない。
それに根も葉もない噂が立たれるとこっちにもストレスが溜まるってもんだ。
変な噂に流されて人を悪者みたいにして。だから嫌なんだよ。
「ん、次」
『ありがとうございました』
私の番が終わると監督はまた怒鳴る。できてないからと。
私もできてないとこあったのに。監督だってそれは気づいてたはず。
ならなぜ言わない？
多分それは、私が実力派俳優、檜山聡の娘だから。
だから思わず言ってしまったんだ。
『監督、なぜ私には何も言わないんですか？』
それがきっと、ダメだった。
『私にだってもっと未熟な部分があったはずです。監督にもそれは分かってたはず。私が、檜山聡の娘だからですか？』
私がそう言うと、監督の顔は図星のようだった。
『そもそも本番が近いってだけでピリピリしすぎなんですよ。いつも通りやればいいだけの話なのに、何をそんな焦る必要があるんですか？』
いつの間にか私のことではなく全体のことも言ってしまった。これじゃ思いっきり喧嘩をふっかけてるじゃないか。
「あのねぇ！アンタは本番とかテレビとか慣れてるでしょうけど、私達はそうじゃないのよ！！本番とか何回やっても慣れないし今回はテレビだって来るの！私達の劇が放映されるの！！失敗なんか許されるわけない！！」
「そうだよ！テレビって怖いんだからね！一度でも失敗すればその部分だけが切り取られて悪く言われるんだよ！！そこんとこわかってんの！？」
………分かってないわけないじゃん。
『テレビが怖いのなんて、分かってるよ』
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作者名：さかな | 作成日時：2023年3月31日 0時
