【歌い手】画面の向こうに【浦島坂田船】

カメラと夢の中【志麻】 ページ9

ゆらゆらと揺れる視界が捉えたのは、紫翠の髪と菖蒲色の瞳だった。

「……A？」

聞いたことのある声だった。
低めの、和らげな声。
会ったことのある人、直感的にそう感じた。

「だれ、？」

そう問いかける。
目の前の人は一瞬目を見開いて、すぐ後に目を伏せた。

「Aは夢を見てるんやで」

何度も言い聞かすようにそう答える彼。
でも、その言葉を聞くごとにぼんやりとしていた視界がクリアになっていく。
ああ、そうだ。

「……カメラ」

足が綺麗な人が好きな、カメラ。
端麗な顔立ちはその声を聞き、目を見開く。
なんで、そんな呟きも聞こえた。

「何年一緒にいると思ってんの……」

携帯開いた瞬間からいたんだから、何年？
回らない頭で考えた。分からない。
でも、きっと長いこと一緒にいるんだろう。

「……そっか」

そう呟いたカメラは私の額に手を当てた。
ひんやりと冷たい手が心地よい。
少し考えた素振りを見せた後、小さく笑った。

「あんま熱くないし、すぐ治るやろ」

だから大丈夫、そう微笑んだカメラは髪を掬って優しく撫でる。
親みたい、なんて思っていると立ち上がる。
ふ、とこちらに視線を映して、最後にまた一言。

「A、……夢、やから」

またその言葉。
そう思った私は閉じられた扉を見ている内に眠りについていた。

続く お気に入り登録で更新チェックしよう!

最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している


←目覚まし時計と体調【うらたぬき】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す