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「コイツは俺のツレだ」
きっぱりと言い切った直樹くんが放つ蹴りも、猛さんは易々と捌いてしまう。誰ですか?今は隠居してるとか言ったのは。バリバリ現役レベルじゃないですか。
少しは話を聞いてやれって、直樹くんが何度言っても聞き入れようとしない。圧倒的な強さでふたりを瞬殺した猛さんは、ギラギラさせた目で難破くんを見下ろして、拳を振り上げた。
「……やめてください!」
気づけば身体が勝手に動いて、難破くん目掛けて振り下ろされた猛さんの左腕に飛びついていた。
……でも、猛さんはわたしなんかが敵う相手なはずなくて、軽く力を込めただけで振り払われてしまう。ふらりとよろけた胸ぐらを掴んで背後のシャッターに強く押し付けられて、身動きが取れない。
さっきまでみたいにブン殴れば終わりだったろうに、それでもしないのは、わたしが女だからって手加減されてる証拠だ。なのに全く歯が立たないのかって、悔しくなった。
「あのバカに2年半も騙されてきたんだぞ!!そんな兄貴の気持ちが分かんのか!!」
「…………好きで家族に嘘つくバカがどこにいるんですか!!」
ずっと弟に嘘をつかれてきた、猛さんだって辛いだろう。それは分かる。でも、難破くんはなにも面白がって二重生活を続けてきたわけじゃない。
それを分かってもらえないのが悔しくて、苛立って。自分のものとは思えないくらいの大声が、腹の底から飛び出した。これには難破くんも直樹くんも吟子ちゃんもびっくりして、唖然としてわたしを見つめていた。……それでも、開いてしまったわたしの口は止まらない。
「難破くんはこの2年半、苦しみながら二重生活続けてたんですよ!
貴方こそ家族を騙さざるを得なくなった弟の気持ちを何ひとつ分かってない!!バカはそっちです!頭でっかち!分からずや!!」
「ンだと……?!」
分からないものは仕方ない。けど、“分からない”のとハナから“分かろうとしない”のとでは話が違う。
難破くんは、いつか家族に秘密がバレてガッカリされることを恐れていた。それでも二重生活をやめなかったのは、心の底に眠る信念があったから。
表面だけの『嘘をつかれた』事実に憤って、その信念に向き合おうとしないのは、さすがのわたしも腹が立った。
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リュウ - 毎日更新ありがとうございます。毎日チェックしてます!これからも更新お願いします! (11月28日 2時) (レス) @page8 id: b6e7a94813 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まめこ。 | 作成日時:2023年11月26日 11時