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猛さんが市松へやって来るという二重生活最大のハプニングを経て、放課後。例の中華料理屋さん。わたしたちはもうここの常連みたくなっていて、今日もいつもの真ん中のテーブルを4人で囲んでいた。
「俺はな……医者になる！」
至極真面目な顔をした大丸くんが強気に宣言する。一瞬空気が静まり返ったかと思うと、店はドッと笑いに包まれた。
「なんで？！」
「伍代は？」
「流すなよ！なぁ姉御」
「それ賢い人しかなれないですよ」
「ストレートに傷つく！」
夢を抱くのはいいことだと思うけど。やっぱり綺麗事だけでやってけるほど世間は甘くないとも思う。現実と向き合うのも大事だよね。
そんなわたしたちを横目に、難破くんに尋ねられた直樹くんは少し考えて、こう答えた。
「旅かな」
「それ進路じゃなくね？」
「アフリカとか南米のジャングルとかよ。まるっきり日本と違うところって面白そうじゃねえか」
「おー……なんかカッケェな」
難破くんの意見には静かに賛成だった。進路…っていうとどこの大学に行くとか、何になりたいとか、そういう話になりがちだけど。その発想はなかったなぁ。
直樹くんはいつも想像力が寛大っていうかなんていうか。籠りがちなわたしにはない要素で純粋に尊敬する。
「ほーん。じゃあアレだな。伍代がナンベイ行ったらお前らも遠距離恋愛だな」
「南米は国名じゃないですよ。あとなんで嬉しそうなんですか」
「仲間意識？」
「そう言う姉崎はどうすんだよ。伍代についてくのか？」
「それもいいけど……進学ですね。カウンセラーとかいいなって思ってて」
「ナルホドねぇ。姉崎らしいわ」
市松に入ってからたびたび痛感すること。それは、仲間の暖かさ。
嫌なことも飲み込んでネガティブになりがちだったけど、ひとりでも味方がいるって思えるだけで前向きになれると思うから。独りぼっちで困っている人にとって、わたしもそんな存在になれたらと思ったのだ。
だから卒業後は進学して、カウンセラー…厳密に言えば、臨床心理士を目指します。
「難破、難しく考えんなよ。お前の人生なんだから好きにやりゃいいんだよ」
難破くん的にはきっと、これからも絵を描きたいって思ってるんだろう。でも家族のこともあって、どうも決めきれないってところかな。
進学するってなったら二重生活は確実に無理だし。隠そうとせず、今のうちに打ち明けるのもひとつの手だとわたしは思う。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2023年11月26日 11時
