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「なにがアコギの商売じゃと……？」
ぱき。指先で砕けた落花生の実が、ばらばらと床に零れ落ちる。
ソファーから立ち上がった安藤は幸男さんに近づき、その肩をぐいと引き寄せて言った。
「ワシはソイツの兄貴の仕事まで世話しとるんじゃ。のう、幸男くん」
「ああ。ありがとな」
わたしたちはてっきり、わたしが過去にトウコさんたちの下僕としてこき使われていたように、幸男さんも安藤から恐怖で無理やり従わされているもんだと思っていた。
でも実際はそうではなくて。
怖がるどころか、曇りのない目を細めた幸男さんの「ありがとう」は、正真正銘、安藤だけに向けた、心からの言葉に見えた。
「オイ、兄貴のやつ完全に信用してんじゃねえか」
「信用っていうか………あれもう洗脳ですよ」
声を潜めて直樹くんが言う。わたしもそれに賛同した。借金を追わされた本人がそこから脱却しようという気がない以上、こちら側に連れ戻すのは至難の業だ。幸男さんは、追わされた借金も仕事も、その全てが違法だなんて気づいていない。寧ろ、行き場をなくした自分たちを救ってくれた恩師とでも思っているんだろう。
これはなかなか……大変だ。
「ああーっ！お前、大丸？」
「……幸男くん、久しぶり」
「懐かしい！！」
天然かなにかなんだろうか。緊迫した状況に全く気づかない幸男さんは、嬉しそうに笑っていたかと思うと、目をまん丸にさせて大丸くんに飛びついた。そしてこれまた嬉しそうに大丸くんを安藤に紹介している。
わたしはしょっちゅう危機感が足りないって直樹くんに言われるけど、この人はもう足りないどころじゃない。ヤバい。
「コイツ、中学でいちばん強かったんだよ！」
「そういやこんなぁ……全然ビビっとらん。場慣れしとるんじゃのう」
大丸くんもかなり背が高い方だけど、それよりもずっと高い位置から彼を見下ろした安藤が、ニイと不敵に口角を引き上げる。いやわたしは全然ビビってるし帰りたいですけどね！と心の中で付け加えながら、身体が震えそうになるのを堪える。
一方の安藤は、負けじと睨み返してくる大丸くんを見て興が乗ったのか、楽しげに声を弾ませてひとつ、提案をした。
「ならゲームしようや。ワシに勝ったらコイツの借金チャラにしてやってもええで」
「なんで大ちゃんと……！」
「わかった。俺が勝ったらコイツら兄妹に1ミリも近づくんじゃねえぞ」
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2023年11月26日 11時
