序章 ページ3
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青く澄んだ空、街を行き交う人たち。
いつもと変わらない今日だ。
新幹線の中ですやすやと寝息を立てる少女……蕨美Aは、そんな平凡な日常に溶け込む悪を視ることができる。
陰陽術が「悪霊退散」と謳って霊を祓っていたのは数百年も前。そんな大昔の陰陽術一族の末裔として生まれたAにも、そこらの悪霊なら簡単に祓える程度の霊力と、僅かな呪力が備わっていた。
「東京ってわらび餅あるんかな…………」
ふんわりと眠りから覚め、変わりゆく外の景色を眺めながらぽつりとそんなことを呟いたAの前で、ポニーテールと眼鏡が特徴的な少女がスマホから顔を上げて言う。
「何処にでもあるだろ、今どきコンビニにでも売ってるぞ」
「え、そうなん……?!」
眼鏡の奥の切れ長な瞳を伏せて、はあ、とため息をつくのは、幼なじみの禪院真希。2人が乗る新幹線は、大都会東京へと向かっている。
「でもいいのか、京都の学校行かなくて」
「ええねん。私決めたから」
「そうかよ」
男勝りな口調で言った真希はそれ以上詮索してこない。真希はスマホを鞄にしまうと、「そろそろ着くぞ」とその鞄を肩にかけた。Aも同じようにリュックを背負う。
今の時代に“陰陽師”はそう多くいない。
それは何故か。この世に蔓延る悪が『悪霊』ではなくなったからだ。人々を苦しめている『呪霊』を祓う“呪術師”になるため、Aは今日をもって、生まれ育った京都を出る。
(ちゃんとやってけるか不安やわ…………)
いざ新たな地に踏み出してみるとなるとなかなか勇気がいる。Aは泣き出しそうになるのをぐっと堪え、車内アナウンスを聞き流しながら新幹線を降りた。
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作者名:まめこ。 | 作成日時:2021年2月12日 12時