愛する貴方に真紅の薔薇を。２【文スト】

91話 : 己が己で在る為の理由 ページ45

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(嫌…………嫌だ、敦さんが死んじゃう)


ぽたぽたと振ってくる血で頬を染め、その瞳に絶望の色を湛えたAは、呆然と座り込んだ。


｢唯の弱者が何故戻った？人虎を救いたかったか。
大いに結構…………まとめて死ぬだけだ｣

｢っ……！｣


＿＿＿＿敦で敵わなかった相手に勝てるはずがない。

こちらへ歩いてくる芥川の冷たい視線にかつての両親を重ね、Aは凍りついて動けなくなっていた。
ここで死ぬんだと悟ったのだ。死ぬことは怖くはない。ただ、このまま芥川を野放しにして、鏡花をひとりにする事が怖かった。

じりじりと後退り、壁に背中がぶつかった時、Aのものでも芥川のものでもない、息も絶え絶えな声が聞こえた。


｢や…………めろ、……｣

｢！｣


血にまみれた手で地面を掻き、絞り出した声に、Aにとどめを刺そうとする芥川の足が止まる。
芥川の最後の一撃は確実に入った。現にあちこちから血を流す敦は出血多量で長くはないはず。それなのに、どうして。……そう尋ねるより先に、敦が芥川に問いかけた。


｢お前はそんなに強いのに……どうして彼女を利用したんだ｣

｢……『夜叉白雪』は殺戮の異能。他者を殺す時のみ鏡花は強者だ。人を殺さねば無価値。利用ではない。
僕(やつがれ)は鏡花に価値を与えただけだ。
生きる価値を＿＿｣

｢それだ｣


芥川の口から零れた『生きる価値』というワード。
それにぴくりと口元をひくつかせた敦は、満身創痍の身体になりながらも起き上がり、真っ直ぐに芥川を見据えた。


｢誰かに生きる価値があるかないかをお前が判断するな｣









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