愛する貴方に真紅の薔薇を。２【文スト】

51話 : レモネードの惨劇 ページ5

･







(落としたら………………)


"治療"する時の与謝野の狂気に満ちた笑顔を思い出し、やっぱり半分持った方がいいんじゃないかとAが思った時、


━━━━━━━━ドンッ


｢わ｣


前からタタタッと走ってきた小さな影と、肩がぶつかる。ふらりとよろめいたAは、｢ごめんなさいっ｣と振り返った。


｢………………｣

｢？｣


そこに居たのは赤い着物の少女。
長い髪を低い位置で2つに縛り、右の袖をたくし上げたその少女は、Aの方をちらりと見ると何も言わずに走り去って行った。


｢何だったんでしょう………………｣


だが、悲劇というのは連続して起こるもので。


｢おわっ？！｣

｢！｣


走り去っていく少女の方を見ながら歩いていたAは、パッと前を向いた時、一気に青ざめた。
だって目の前には大荷物を抱えた敦がいて、それに急には止まれず、その背中にガンッと頭から突っ込んでしまったのだ。よろける敦は荷物を落とさぬよう踏ん張るが、1番上に積み上げられた紙袋から、数個の檸檬が転がった。


｢っごめんなさい！｣


悲鳴に近い声をあげたAは、ぺたりと地面を這うようにして高速で檸檬を拾い集める。
それでも拾いきれなかった一粒の檸檬は、Aの手を潜り抜けてころころと転がっていく。


｢ダメダメダメダメダメ行かないで｣

｢おやまァ｣


檸檬が転がる先には、何やら電話をする男性がいた。
その男性は電話に向かってブチ切れていて、なにかと絡まれたら面倒なやつだとひと目でわかった。
Aが慌てて拾おうとするも数秒遅く、怒る男性は、その檸檬を踏んづけた。









･

52話 : 張られた頬の痛みより→←50話 : 初恋のときめきを貴方に

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す