1カラットの雫【江口拓也】

第12話 ページ12

「ただいま〜」

誰もいない部屋にただいまと声をかけ、
靴を脱ぎ、手を洗い、そのままソファーへダイブする

「…あ〜なんであんなこと聞いちゃったんだろ」

気まずいじゃん！
現場一緒じゃん！？

そう、あの時彼女に聞いた言葉──────



ずっと気になっていた違和感

「…何で“本当に笑わないの？”」

『…何がです？』

「あ！いや、気分を害してしまったら悪いんだけど……その」

ずっと気になっていた

“彼女の笑顔はどこか嘘っぽい”

それはまるで演技のようで
あまりにも完璧すぎるからこそ
嘘っぽい

「…その、心の底から笑っていない気がして」

そう感じたのは
そう気づいたのは
きっと俺にも心当たりがあったから


『…ふふっ、なんででしょうね』

また、だ

顔は笑顔でいるけれど
俺には彼女の感情が分からない


「ごめん、変なこと言ったね」

『大丈夫ですよ』

『それに…』

「うん？」

『…笑い方忘れてしまったから』

そう小さく呟いた声は
俺の耳に残って離れなかった

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あのあと、家が近いからと
途中で別れたので
なんとも後味が悪い

「はぁ〜失礼だったよね…」

何となく、彼女が言った最後の言葉が
気になって 気がつくと俺はスマホで

“東雲羽衣”と検索した

「……東雲…羽衣…あ、あった」

軽く経歴を調べてもどれもよく分からない
サイトが更新されていない

あれぇ…やっぱり新人さんなのかな？

そう思ったが、あの良平さんと仲がいいのだ
流石にそれは…と思ってスマホを下へとスライドする

「…え」

すると、検索していた指を止めることになった
とあるサイトの彼女記事

声優 東雲 羽衣 無期限活動休止

そう書かれた文字

「……どういうこと？」

その記事は6年も前

絶賛売り出し中だった彼女
アニメ、映画、舞台、朗読劇…
出るものが全てヒットするくらい人気の声優

こんなに売れてたら、気付くはず
そう、俺だって知ってるはずだった…
“活動休止”さえしていなければ

そう、彼女は人気“だった”────


手スライドさせる指が少しだけ冷えた

「堕ちた…天使……溺れた人魚…？」

そんな売れっ子声優には似つかぬ記事の見出し

堕ちた天使 溺れた人魚
くすんだ宝石 糸の切れたあやつり人形
玉から落ちた道化師…

どれも皮肉じみた表現

「なにこれ」

そして、そのタイトルの下に書かれてた文字

……目を疑った文字

“東雲羽衣 大舞台で突然声を失う───”

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