ほら、はやくつめてよ【瀬名泉】 (ページ1)

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バイト初日ページ1

「おはようございます！今日から一緒に働かせていただく佐藤Aです。精一杯頑張りますのでよろしくお願いします！」

頭を深々と下げる。
こ、これで第一印象は完璧なはず……。

ささやかな拍手が頭上から降ってきたのでゆっくりと顔を上げる。
バイト先の人々は温かい言葉をかけてくれた。どうにかうまくやっていけそうだ。

佐藤A、本日からバイトスタートです。

バイト先に選んだ所は家から自転車で20分、大手コンビニ。志望動機は単純、お小遣いだけでは資金が足りない。高校生の私にはいくらお金があっても足りないのだ。
時給790円と少し安めだが、まあ良い。何事も経験だ。

「いらっしゃいませー」

愛想のいい笑顔を浮かべ次々と接客をしていく。笑顔がこんなに疲れるものだとは思っていなかった。
接客業を舐めいた……。開始1時間たらずで頬の筋肉が引きつるのを感じた。

「つ、かれたぁ～」

お客さんが途切れたのを見計らいレジカウンターに頭を垂れる。楽だと思っていたのに全然楽じゃない。

「佐藤さーん、裏入るからレジお願いね～」

店長さんが私に一声かけて商品がたくさん置いてあるバックヤードへと姿を消した。
話によればこの時間はほぼお客さんが来ないらしい。

はーい、と返事をして少ししゃがむ。こんな調子でやっていけるのだろうかと不安になった。

「……ちょっと！聞こえてんの」

声が聞こえてばっと上を向く。苛立っているお客様がこちらを見下ろしていた。

やばい、やらかした。

急いで立ち上がり、頭を下げる。

「す、すいません！すぐにお会計を……」

慌てるあまりどういう手の滑り方をしたのか自分でもわからない。カウンターに置かれた水が宙を舞い、お客様の顔にヒットした。
顔の血の気がサー、と引いていくのがわかった。

「……あんた、名前は」

先ほどよりも低い声に小さな悲鳴が溢れる。落ちた眼鏡を拾い、お客さんの素顔を見えた。

伏し目がちな大きな青い瞳、キリッと上がった眉毛、すっとした鼻筋、きめ細かな白い肌。
お客様はとんでもない美形だったのだ。

「え、あの。佐藤、Aです……」

声がだんだんと小さくなる。私の態度を見てか、眉間に皺が寄った。美形は怒っても美形だな、なんてことは思ったがとてもそんなことを思える状況ではなかった。

「……はやく会計、あんたの名前は覚えておくから」
キッと睨んだその顔もとても美形で何も言い返せずバイト初日は幕を閉じた。