空の青と西校舎。

蘇る ページ8

声に出ていたのか、察しが早いのか、又はただの勘なのか水瀬拓真が「半分だけ、正解」と口角を上げて静かに言った。

「たっきーに魅せられたんじゃなくって




魅せられたのはたっきーが弾いていたギターね。」

もちろんたっきーかっこ良かったけどね、と付け足して。なんか、ややこしいけどね？と笑っていた。

ギターに惹かれて。


すごくわかる。心のなかで呟いて、懐かしい感情が蘇ってきたのに気づく。

俺もギターに惹かれて軽音始めたから。

いつかの音楽番組に出ていた、「BUMP the CHICKEN」というバンドで感銘を受けたことをきっかけに、高校から軽音を始めた。

よくある話だね、なんて人のこと言えないなと反省する。目の前にいる水瀬拓真は「行くよ」と保健室へと身を翻し、俺もそのあとに続きながら、１年前の蘇ってきた感情を心の奥底に無理矢理しまいこんだ。


保健室に来ると、先生は職員会議中で誰もいなかったが、椅子の上に水瀬拓真のであろう黒のリュックサックが置いてあった。

「ねー、名前、神木くんだよね？あれ？金木くんだっけ？」

「………神木で当たってるよ」

「もう１人は、なお、、しま、」

「大島尚信、だね」

真顔で間違える彼が面白くて、少し頬が緩む。

リュックサックを取って、保健室を出た。

水瀬拓真は少し迷って


「神木くんは」


と俯きながら、口にした。

いく宛もなくただ廊下をふらふら歩きながら、水瀬拓真の次の言葉を待つ。


「大島くんに遠慮してない？」


急に首を絞められたみたいに、ぎゅっと息苦しさを感じた。眼を見開き、彼を見る。

口にした本人は俯いていた。

自然と二人足が止まり、廊下には異様な空気が流れる。二人だけの廊下は水を打ったように静まり、外の雨音がよく聞こえた。なにか話さなきゃと思うが、上手く言葉がでない。

「遠慮しているっていうのは」

水瀬拓真は俯き気味に、言う。

「多分、神木くんはもう一回軽音やりたいけど、大島くんが拒否ってるから、悪いなと思って遠慮してる感じ、が、する」

どんどん声が小さくなり、口にした本人も遠慮しているのがわかった。たっきーならもっと上手く言えるんだけどな、と小さく呟いたのが微かに聞こえた。

「ごめん、でも本当に思ったことだから」

顔色を伺いながらも言葉はストレートだ。水瀬拓真の言っていることは正しい。俺は、自分の気持ちに正直になることで生じる変化を恐れていたんだ。

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